――結局、渡辺の行方は分からず終いだ。
どうしてこのオレが、このくそ暑い中、渡辺なんかを校内中探さなけりゃならないんだ。
廊下の窓から差し込む強烈な西日に、じりじり照らされながら、額に汗して学校を彷徨う自分が、ほとほとバカらしく思えて来る。
オレは力なく飛ぶ凧のように、ふらふらと廊下を歩いた。
***
気が付くと、さっきよりも強い日差しが頬に当たる。もう九月の日差しだと言うのに、ジリジリと焼けるように熱い。
渡り廊下に出たのだ。
うちの学校の渡り廊下は、若干くねっていて、簡易的な屋根が設置されている廊下で、外にいるのとあまり変わらない。外の風も日差しも、時には雨も、下手をするとモロに体に直撃する。
しかもわりと長い回廊だ。
渡り廊下に出た途端、同時に焼けるような空気が喉に詰まる。フッと顔を上げたとき、見覚えのある姿が視界の中に映った。
……渡辺。
じわじわと、怒りがこみ上げて来る。
あのヤロウ! とオレは、今のどうしようもないイライラを拳に込め、上履きで渡り廊下の外に、そのまま出ようとしたが……
出来なかった。
呼吸が止まった。
足が動かなくなった。
視界にはもう一人の影……
背の高い……
男の……
渡辺と、なにやら話している。
西日に照らされた二人の情景は、古い青春ドラマの、ワンシーンそのままみたいだと思った。
オレはそのまま来た校舎の廊下に後退り、駆け出していた。
***
なんで走ってんだ? オレ?
まるで、逃げるみたいに……
頭がうまく回らない。
ただ……
ただ……
なんだか、絶対見たくなかったものを、目の前に突きつけられた気がした。
なにが見たくなかったんだろう、オレ?
分からない……
分からないのに!
走りながら、頭では理解出来ないと思っていたのに、心のどこがでオレは、なにかを理解していた。
うまくは言えないけど……言葉では表現しきれないなにかを、オレは確かに理解していた。
そのときのオレの気持ちを、もっとも簡潔に簡単に説明するなら……
「裏切られた」気がしたんだ。
それ以上は深く、自分の気持ちを考えたくない。
まったくもって、筋違いなのは分かっていた。
でも、どんなに正論を掲げても、自分の感情を押し殺せないときだって、あるんだ。
それがイヤってほど分かって、オレはますます惨めな気分になった。
ただ……走ることで、今見た現実も自分の感情も、どこかに置き去りにしてしまいたかった。
つづく
どうしてこのオレが、このくそ暑い中、渡辺なんかを校内中探さなけりゃならないんだ。
廊下の窓から差し込む強烈な西日に、じりじり照らされながら、額に汗して学校を彷徨う自分が、ほとほとバカらしく思えて来る。
オレは力なく飛ぶ凧のように、ふらふらと廊下を歩いた。
***
気が付くと、さっきよりも強い日差しが頬に当たる。もう九月の日差しだと言うのに、ジリジリと焼けるように熱い。
渡り廊下に出たのだ。
うちの学校の渡り廊下は、若干くねっていて、簡易的な屋根が設置されている廊下で、外にいるのとあまり変わらない。外の風も日差しも、時には雨も、下手をするとモロに体に直撃する。
しかもわりと長い回廊だ。
渡り廊下に出た途端、同時に焼けるような空気が喉に詰まる。フッと顔を上げたとき、見覚えのある姿が視界の中に映った。
……渡辺。
じわじわと、怒りがこみ上げて来る。
あのヤロウ! とオレは、今のどうしようもないイライラを拳に込め、上履きで渡り廊下の外に、そのまま出ようとしたが……
出来なかった。
呼吸が止まった。
足が動かなくなった。
視界にはもう一人の影……
背の高い……
男の……
渡辺と、なにやら話している。
西日に照らされた二人の情景は、古い青春ドラマの、ワンシーンそのままみたいだと思った。
オレはそのまま来た校舎の廊下に後退り、駆け出していた。
***
なんで走ってんだ? オレ?
まるで、逃げるみたいに……
頭がうまく回らない。
ただ……
ただ……
なんだか、絶対見たくなかったものを、目の前に突きつけられた気がした。
なにが見たくなかったんだろう、オレ?
分からない……
分からないのに!
走りながら、頭では理解出来ないと思っていたのに、心のどこがでオレは、なにかを理解していた。
うまくは言えないけど……言葉では表現しきれないなにかを、オレは確かに理解していた。
そのときのオレの気持ちを、もっとも簡潔に簡単に説明するなら……
「裏切られた」気がしたんだ。
それ以上は深く、自分の気持ちを考えたくない。
まったくもって、筋違いなのは分かっていた。
でも、どんなに正論を掲げても、自分の感情を押し殺せないときだって、あるんだ。
それがイヤってほど分かって、オレはますます惨めな気分になった。
ただ……走ることで、今見た現実も自分の感情も、どこかに置き去りにしてしまいたかった。
つづく