オレは作業のあと片付けもせず、呼び止める渡辺の声を振り切って、図書室を飛びたした。
図書室の外の世界は、すばらしく開放的な気がした。
***
スマホがないことに気が付いたのは、家に着いてからだった。
自宅の電話からスマホにかけても、周辺からは反応がない。なんてことだ、本当にツイてない!
心当たりは学校と、学校までの道乗りだ。
学校に忘れたならまだいいが、途中で落としたとなると、なにかと面倒だ。
背に腹はかえられない。スマホがないと本当に困る! オレはしぶしぶ、制服のまま家を出た。
***
こんなとき、“願いが叶う本”があったらと、またアホなことを考えてしまった。
本でなくてもいい……ドラ◯もんさえいてくれれば。
……ホント、オレって夢見がち。
***
秋の虫の鳴き声が辺りに響く。昼間のあのクソ暑さがだいぶ和らいで、空はすっかり暗くなっていた。
オレにしては、だいぶ真面目にスマホを探したのだ。
道路の隅に追いやられていないか、かなり丁寧に探したし、通りすがりのコンビニや、商店の人にも聞いてみたいくらいだ。
結局、通学路にはスマホは落ちてなく、見つからず、そのまま学校まで辿り着いてしまった。
一縷の望みを掛け、オレは学校の校門をくぐった。
***
希望を捨てなければ、道はどこまでも続いている……
そんな一文が閃いた。
良かった、あったよ! これも日頃の行いってやつ?
なんて浮かれてしまったけど、日頃の行いがいいやつは、スマホをうっかり学校に忘れたりしないものだ。
間抜けなことに、自分の机の中にちゃっかりスマホは、置きっぱなしになっていたのだ。灯台下暗し……というか自分の迂闊さが、ジワジワとオレの心を逆撫でる。
***
夜の学校って、なんでこんなに不気味なんだろう? 情けないが、あまりホラー系は得意ではない。
薄暗い校舎内に、ほとんど人は残っていなかったので、目の端に人の気配を感じると、オレは思わず叫びそうになった。
人影に……足はある。幽霊ではなかった。
――渡辺明日奈だ。
渡辺はオレに気が付かず、下駄箱から革靴を出すと手際良く履き替えて、昇降口から出て行った。
もう七時近いぞ……。
***
前日とは違った意味で、声は掛けられなかった。
オレは薄暗くなった景色に、吸い込まれるように一人消えて行く渡辺の姿を、黙って見送った。
つづく
図書室の外の世界は、すばらしく開放的な気がした。
***
スマホがないことに気が付いたのは、家に着いてからだった。
自宅の電話からスマホにかけても、周辺からは反応がない。なんてことだ、本当にツイてない!
心当たりは学校と、学校までの道乗りだ。
学校に忘れたならまだいいが、途中で落としたとなると、なにかと面倒だ。
背に腹はかえられない。スマホがないと本当に困る! オレはしぶしぶ、制服のまま家を出た。
***
こんなとき、“願いが叶う本”があったらと、またアホなことを考えてしまった。
本でなくてもいい……ドラ◯もんさえいてくれれば。
……ホント、オレって夢見がち。
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秋の虫の鳴き声が辺りに響く。昼間のあのクソ暑さがだいぶ和らいで、空はすっかり暗くなっていた。
オレにしては、だいぶ真面目にスマホを探したのだ。
道路の隅に追いやられていないか、かなり丁寧に探したし、通りすがりのコンビニや、商店の人にも聞いてみたいくらいだ。
結局、通学路にはスマホは落ちてなく、見つからず、そのまま学校まで辿り着いてしまった。
一縷の望みを掛け、オレは学校の校門をくぐった。
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希望を捨てなければ、道はどこまでも続いている……
そんな一文が閃いた。
良かった、あったよ! これも日頃の行いってやつ?
なんて浮かれてしまったけど、日頃の行いがいいやつは、スマホをうっかり学校に忘れたりしないものだ。
間抜けなことに、自分の机の中にちゃっかりスマホは、置きっぱなしになっていたのだ。灯台下暗し……というか自分の迂闊さが、ジワジワとオレの心を逆撫でる。
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夜の学校って、なんでこんなに不気味なんだろう? 情けないが、あまりホラー系は得意ではない。
薄暗い校舎内に、ほとんど人は残っていなかったので、目の端に人の気配を感じると、オレは思わず叫びそうになった。
人影に……足はある。幽霊ではなかった。
――渡辺明日奈だ。
渡辺はオレに気が付かず、下駄箱から革靴を出すと手際良く履き替えて、昇降口から出て行った。
もう七時近いぞ……。
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前日とは違った意味で、声は掛けられなかった。
オレは薄暗くなった景色に、吸い込まれるように一人消えて行く渡辺の姿を、黙って見送った。
つづく