「増長大臣。軽々しく女性に触れるなど失礼ではないか?」
「おやおや。中佐が人に固執するなんて珍しい。確かに、清浄なる気質の持ち主を独り占めしたい気持ちもわかるがね」
「そういうわけではない」
「へえ、そうか? まあ、いいさ。今夜の目的は別のことだ。さっきも言ったが、中佐に引き合わせたい人がいる」
そう言うと、増長は振り向いて誰かに手招きをした。彼の視線の先を辿ると、人の波の中を真紅のドレスを纏った美しい女性がゆっくり歩いて来る。まるで薔薇がひらひらと風に揺れるような艶やかさに、由乃の目は釘付けになった。
「彼女は園山成子嬢、輔翼の本家の娘だ。美しく賢く、非の打ちどころのない女性でね、中佐の嫁にどうかと思ったのだ」
紹介された園山成子は、響の前まで来ると優雅に挨拶をした。
「初めまして。園山成子と申します。増長様にご無理を言いまして、多聞様に会う機会を作っていただきました」
「そうなのだ。成子は妻、信子の弟の娘で私の姪に当たる。憲兵隊での中佐の活躍を聞いて、ぜひ妻になりたいと名乗りを上げたのだ。勇ましいだろう? 君にぴったりだと思わないか? きっとよい伴侶になると思うぞ?」
増長は演説をするかの如く、朗々と弁を述べる。思いがけない展開になってきた、と由乃は一歩引いてことの成り行きを見守った。これは、言うなれば公共でのお見合い。使用人である自分が邪魔をしてはいけないと考えたからだ。
(どうなるのかしら。成子様はとてもお美しいから、響様もいい返事をなさるかもしれない)
「おやおや。中佐が人に固執するなんて珍しい。確かに、清浄なる気質の持ち主を独り占めしたい気持ちもわかるがね」
「そういうわけではない」
「へえ、そうか? まあ、いいさ。今夜の目的は別のことだ。さっきも言ったが、中佐に引き合わせたい人がいる」
そう言うと、増長は振り向いて誰かに手招きをした。彼の視線の先を辿ると、人の波の中を真紅のドレスを纏った美しい女性がゆっくり歩いて来る。まるで薔薇がひらひらと風に揺れるような艶やかさに、由乃の目は釘付けになった。
「彼女は園山成子嬢、輔翼の本家の娘だ。美しく賢く、非の打ちどころのない女性でね、中佐の嫁にどうかと思ったのだ」
紹介された園山成子は、響の前まで来ると優雅に挨拶をした。
「初めまして。園山成子と申します。増長様にご無理を言いまして、多聞様に会う機会を作っていただきました」
「そうなのだ。成子は妻、信子の弟の娘で私の姪に当たる。憲兵隊での中佐の活躍を聞いて、ぜひ妻になりたいと名乗りを上げたのだ。勇ましいだろう? 君にぴったりだと思わないか? きっとよい伴侶になると思うぞ?」
増長は演説をするかの如く、朗々と弁を述べる。思いがけない展開になってきた、と由乃は一歩引いてことの成り行きを見守った。これは、言うなれば公共でのお見合い。使用人である自分が邪魔をしてはいけないと考えたからだ。
(どうなるのかしら。成子様はとてもお美しいから、響様もいい返事をなさるかもしれない)