そこで会話は終わった。由乃は奏に言われた通り、夕餉に糠漬けを出した。もちろん、手紙も一緒である。そして、いつものように夕餉を下げに行くと、お膳置き場に食器がない。どうしたのだろうと佇んでいると、突然前の扉がギィと開いた。

「奏様⁉」

 姿を現した洋装の少年は、夕餉の膳を両手に、恥ずかしそうに立っていた。涼し気な目元が響と鳴にそっくりで、色素が薄いところも似ている。しかし、ふたりとは違い、繊細さと儚さが際立っていた。首元には、火傷の痕と見えるものがうっすらとあったが、シャツの襟で隠されていてあまり目立たない。十三歳というが、細く小柄なのでもっと幼く見えた。

「お前が由乃?」
「は、はい、蜷川由乃でございます」
「手紙には、兄様……響様に連れて来られた、と書いてあったけれど本当?」
「はい」

 ふうん、と軽く頷いて、奏は角盆を由乃に手渡した。

「手紙……毎日読ませてもらったよ」
「そうですか! よかった、差し出がましいかと心配していたのですが」
「差し出がましいなんて……外の様子が知れて新鮮だったよ」

 そう言って照れる奏は、心に傷を抱えた少年には見えない。どこにでもいる子どものように見えた。

「あのさ、由乃、聞きたいことがあるんだけど?」
「ええ、なんなりと! あ、その前に、厳島さんを呼んで来ましょう!」

 由乃は、今にも厨房に駆け出したい気持ちでいっぱいだった。早くみんなに、奏が部屋から出てきたことを伝えたい、きっと飛び上がって喜ぶに違いない、と思ったからだ。
 しかし、奏は困ったように言った。