わざわざ大事な場所を教えたのは私なりの罪滅ぼしのつもりでもあるけれど、なぜかミコと秘密を共有したいと思ったからだ。

ミコは大勢の中で過ごすのが苦手なのだろう。放課後は誰よりも先に教室を後にしていた。

だからきっとあの場所を気に入ってくれると思う。

昇降口に着くと、念入りに誰にも見られていないかを確認してから、上履きのまま素早く裏手に回る。曲がり角のすぐ先に、日陰に守られたコンクリートのスロープがある。

ここが私の見つけた秘密の場所。

少しだけ風があるみたいで、緑の葉を纏った桜の木の枝が(ささや)くように()いでいる。

スロープは時間帯によっては程よく日光が当たっているみたいで、じめっとした気持ち悪い感じもしない。丁度良い下り坂で思いっきり足を伸ばしてうーんと伸びをすると、緊張していた心も身体もすっとほぐれる。

本当はこんなところにいるのはどうかと思うんだけど、少しくらいなら居座って良いよね。

隣でもうゴロンしてる子がいる。


「ひんやりして気持ちいいね」

「ちょっとミコ!見えてるって」

「誰もいないから大丈夫だよ」

「もうっ。なんで私がミコのスカートを整えなきゃいけないの」

「でも意外だね。イチがこんなところを知ってるなんて」

「普段は陽キャぶってるのにこんなとこにいるのが変だって?うるさ!」

「まあ、いろいろあるよねー」


あまりにもマイペースなものだから(めく)ってやろうかと思ったけど、ミコは空を見つめながら一人で達観してたからそんなことをするのもしょうもないと思ってやめた。

さっき買ったミックスサンドの開け口を引っ張ると、案の定開く前にフィルムが千切れてしまった。購買のサンドイッチはよく買うけど、この包装はよく失敗してしまうからやんなちゃう。


「あ、そうだ」


今日はこのサンドイッチでも写しておこうと思ったけど、(しお)れたのを写してもなあ。今日は大人しくミコが見ている青空でも写しておこう。


「イチも空、好きなんだ」


ミコは目を瞬かせながらスマホを空に向けている私を見た。あまりにも無邪気な視線を送られて私は少しだけ自分が恥ずかしくなった。

ごめん、私はミコみたいに純粋な気持ちで空を見ることができないんだ。


「うーん。別にそこまで好きってわけじゃない。なんとなく映えそうだったから」

「生える?」

「絵になるってこと。ほら、綺麗な景色とか、美味しそうものとかさ、そういうのは投稿しておいた方が良いんだよ。ミコもやってるでしょ?SNS」

「えす、えす?」

「うそ……」