退屈な50分を終えるチャイムが鳴る。
クラスのみんなが一斉に椅子を引く音に耳を劈かれながら、私は号令をかける。
購買へと向かう前に、いつものように耳障りな声を放つ連中に笑顔で微笑みかけて邪気払いをしておく。ああ、いらいらする。
うんざりしながら教室を出ようとすると、誰かが私の服の裾を力無く引っ張った。
「イチ、今日、機嫌悪い?」
「ミコ……別に、そんなことないけど」
猛獣に睨まれたように怯えるミコを見て、ようやく自分の感情が必要以上に毛羽立っていることに気が付く。
「別にって、絶対嘘」
怯えた顔をしているくせに、ミコは私に突っかかろうとしてくる。
精一杯作り笑いをしたら、今度は眉間に皺を寄せた顔をぐいっと近付けてきた。その勢いに押されて、私は反射的に後退る。
「イチの声、なんかいつもより怖いよ」
知り合ってからまだ1週間くらいしか経っていないのに、ミコは私の些細な変化を見逃さなかった。
ミコは夏休み明けにうちのクラスに転校してきたちょっと変わった女の子だ。
新学期早々に転校生が来るなんて予想していなかった私達は、先生の後を追って教室に入ってきたミコに好奇の視線を向けた。
俯きながら恐る恐る教室へと入ってきたミコを見て最初に思ったのは、ふわふわした耳長の小動物みたいだなこいつ、だった。
肩にかかるかどうかの長さの黒髪は綺麗に内側に巻いていて、肌は真っ白。きっと両親に大事に育てられてきたんだろうなって心の中で皮肉ったのはここだけの話。
見た目通りの控えめな声で自己紹介を終える頃には、クラスの男子だけじゃなく、何人かの女子は既にミコの虜になっていた。
庇護欲を誘う見た目をしているミコは、天然で人垂らしの素質を持っていると思う。
ナチュラルで可愛くて純粋無垢な子は、他人に好かれる努力なんてしなくても人が集まってくるからずるい。
仲の良かった何人かはミコの方に行ってしまったし、男子達は陰で誰がミコと付き合うかを予想していた。
けれど本人は静かに過ごしたいのだろう。人が集まってきては少しうんざりしているような顔をしていた。
それを少し気の毒に思いながらも、私は自分からミコに近付くことはしなかった。
それなのに、なぜかミコは私が一人でいる時を狙ったようにやってきては、今みたいに絡んでくる。
だから私はうるさい、えいって、あざとくミコのおでこを指を弾いてこう言い返す。
「ミコも一緒に行く?」
ミコが普段お昼ご飯を食べないことは私も知っている。ちょっと困ったような顔が見れればそれでよかった。
なのに、誘われたのが嬉しかったのか、ミコは満面の笑みを浮かべながら大きく頷いた。
「え、でも、付いて来たってさ……」
「イチが何を食べているのか知りたい」
「何それ。意味わかんないし」
くっそう、この不思議童顔少女め。知ったところでどうすんだよ。
自分から仕掛けておいたのに綺麗にカウンターを食らってしまった私は、知らず知らずのうちにミコのペースに合わせてしまう。
クラスのみんなが一斉に椅子を引く音に耳を劈かれながら、私は号令をかける。
購買へと向かう前に、いつものように耳障りな声を放つ連中に笑顔で微笑みかけて邪気払いをしておく。ああ、いらいらする。
うんざりしながら教室を出ようとすると、誰かが私の服の裾を力無く引っ張った。
「イチ、今日、機嫌悪い?」
「ミコ……別に、そんなことないけど」
猛獣に睨まれたように怯えるミコを見て、ようやく自分の感情が必要以上に毛羽立っていることに気が付く。
「別にって、絶対嘘」
怯えた顔をしているくせに、ミコは私に突っかかろうとしてくる。
精一杯作り笑いをしたら、今度は眉間に皺を寄せた顔をぐいっと近付けてきた。その勢いに押されて、私は反射的に後退る。
「イチの声、なんかいつもより怖いよ」
知り合ってからまだ1週間くらいしか経っていないのに、ミコは私の些細な変化を見逃さなかった。
ミコは夏休み明けにうちのクラスに転校してきたちょっと変わった女の子だ。
新学期早々に転校生が来るなんて予想していなかった私達は、先生の後を追って教室に入ってきたミコに好奇の視線を向けた。
俯きながら恐る恐る教室へと入ってきたミコを見て最初に思ったのは、ふわふわした耳長の小動物みたいだなこいつ、だった。
肩にかかるかどうかの長さの黒髪は綺麗に内側に巻いていて、肌は真っ白。きっと両親に大事に育てられてきたんだろうなって心の中で皮肉ったのはここだけの話。
見た目通りの控えめな声で自己紹介を終える頃には、クラスの男子だけじゃなく、何人かの女子は既にミコの虜になっていた。
庇護欲を誘う見た目をしているミコは、天然で人垂らしの素質を持っていると思う。
ナチュラルで可愛くて純粋無垢な子は、他人に好かれる努力なんてしなくても人が集まってくるからずるい。
仲の良かった何人かはミコの方に行ってしまったし、男子達は陰で誰がミコと付き合うかを予想していた。
けれど本人は静かに過ごしたいのだろう。人が集まってきては少しうんざりしているような顔をしていた。
それを少し気の毒に思いながらも、私は自分からミコに近付くことはしなかった。
それなのに、なぜかミコは私が一人でいる時を狙ったようにやってきては、今みたいに絡んでくる。
だから私はうるさい、えいって、あざとくミコのおでこを指を弾いてこう言い返す。
「ミコも一緒に行く?」
ミコが普段お昼ご飯を食べないことは私も知っている。ちょっと困ったような顔が見れればそれでよかった。
なのに、誘われたのが嬉しかったのか、ミコは満面の笑みを浮かべながら大きく頷いた。
「え、でも、付いて来たってさ……」
「イチが何を食べているのか知りたい」
「何それ。意味わかんないし」
くっそう、この不思議童顔少女め。知ったところでどうすんだよ。
自分から仕掛けておいたのに綺麗にカウンターを食らってしまった私は、知らず知らずのうちにミコのペースに合わせてしまう。