「え……」
声を詰まらせてしまったのは私の方だった。
「死んじゃうかもしれないから、あえて連絡先を聞かないようにしてた。こんな私と繋がってしまったら、きっと嫌な思いをさせてしまうし、私も寂しくなるから。でも、いつも明るくて頑張ってるイチと一緒に居たら、もっと仲良くなりたいって思っちゃって……。ごめんね」
「どういうこと?」
「私の病気は大人になるまでに手術をしないと生きられないんだ。でも、手術をしても治るかどうかはわからないし、術後はずっと身体の免疫が落ちたままになるから、病院で暮らさないといけなくなるの。だから、もうお父さんやお母さん、イチがいる街では暮らせないんだ」
私は馬鹿だ。自分のことだけに一生懸命で、ミコのことなんて何一つ考えていなかった。
もう少しミコのことを気にかけていたなら、もっと早くからミコの異変に気が付いてたんじゃないの。
でも、気付いたところで。
……。
あの時と同じだ。
お母さんは、いつも病室で不安と戦っていた。あの時の私はお母さんの抱える痛みを気にも留めずに、居なくなることをただ悲しんでいた。時折見せるお母さんの不安そうな表情は、いつも自分の泣き顔でかき消していた。
背後に死の足音がする人間が感じる恐怖や不安の大きさを、私なんかが到底わかるはずがない。
でも、今私がやるべきことは、想像できない不安と戦っている友達に寄り添うことなんじゃないの。
今、私の目の前にいるのはお母さんじゃなくて大事な友達。お母さんはもういない。
はっきりとそう実感して、締め付けられるように胸が痛くなった。
でも、その痛みよりも。
伝えなきゃ。
「ミコ、聞いて。私はこの先ミコがどうなろうが、ずっと一緒にいたいって思う。もし、仮にミコが死んじゃうとしても、最後まで一緒に居たいって思う。それに、ミコが生きられるのなら、私はこんなに嬉しいことはない。無責任に聞こえるかもしれないけど、これが私の本心」
「……でも」
「私達もう出逢っちゃったんだもん。一緒にいたいって思っちゃったんだもん。しょうがないじゃん」
ああ、そっか。
気付いてしまった。
お母さんが遺してくれたものをずっと受け取ることを拒んでいた。
だけど、ミコと出会うことで、やっと受け取ることができた。
ミコはお母さんじゃない。
けれどお母さんは、私とミコを出会わせてくれたんだ。
ううん、違う。
ミコはお母さんが遺してくれたものに気付かせてくれた。
顔を上げたミコは、ぐちゃぐちゃになった顔のまま、私の方を向いた。持っているハンカチで顔を拭いてあげると、また大粒の涙を流して泣いた。
「ミコ、聞いてーー」
私は亡くなったお母さんのことをミコに話した。あまりにも偶然が多かったミコとお母さんとの共通点や、勝手にお母さんを投影していたこと。
全部ミコに話した上で、これからもミコと一緒にいたいって、そうはっきりと伝えた。半分は私のために、でも、もう半分はミコのために話した。