「イチ、久しぶりー」
「ひゃいっ!」
心臓の鼓動が早まっている時は、いきなり声をかけられると、もれなく飛び上がる。声のする方に顔を上げると、会いたかったはずのミコが目の前にいる。
ミコは真っ白なワンピースにつばの広い麦わら帽子といういかにも夏真っ盛りという格好で、相変わらずのほわっとした馴染み深い表情を私に向けた。
麦わら帽子を取らずに、さっき須藤くんが座っていた席に座ってすぐに呼び鈴を押し、アイスティーの無糖を注文した。
「ひ、久しぶり。ちょっと焼けた?」
「本当?外に出る機会が増えたからかな」
ミコは右腕をまっすぐ伸ばして、少し色濃くなった腕を自慢げにわざわざ私に向けてくれた。私もミコの腕の隣に並べて見比べる。
「イチの方が黒いね」
「ミコが白すぎるんだって」
「しばらくこっちにいるの?」
「体調が良くなれば戻ろうと思ってるよ。しばらく先になりそうだけど」
しばらくって、いつだろう。
にこにこしなが言ったその言葉を信用していないわけじゃないけれど、その笑顔が自然に出てきたものじゃないってことくらい、私にはわかる。
「元気そうに見えるけど」
腹を立てているわけじゃないし、問い詰めようとしているつもりでもない。ただ、無理はしてほしくなかった。
「こっちにいると、体調が安定するみたいなんだ。私、昔から身体が弱くて、小さい頃からずっとこっちで暮らしてたんだけど、高校生になったら両親がいる街の方で暮らしたいって無理言って、イチのいる学校に転校させてもらったんだ。
でも、また体調が悪くなってきて、結局こっちに戻ってきたの。ごめんね」
ミコは唇を湿らせる程度にアイスティーを口にした。それに釣られて私も頼んでいたカフェオレを同じくらい口にする。カップの中にはほとんど残っていなくて、飲んだふりをしているみたいになってしまったけど。
「実はこうなるのはわかってたの。だから誰にも連絡先を教えなかった。離れ離れになって寂しい思いをするのは嫌だから」
「でも、今はスマホもSNSもあるから、電話も、ビデオ通話だってできるから、離れていても、そこまで寂しくなんてないと思う。ミコがスマホを持つようになった理由って、私が無理にSNSを勧めたって思ってたけど、それだけじゃないよね」
そう言うと、ミコはしばらく俯いたまま黙り込んだ。
待っていたけれど、とうとう私は我慢できずに麦わら帽子のつばで隠れた表情を覗き込む。
「え、ちょっと……ミコ」
ミコは涙が溢れるのを必死に耐えていた。
「イチ、ごめんね……私、本当は、もう死んじゃうかもしれないの」