ミコがスマホを見せてくれた日の夜だったと思う。いつものようにベッドの上でお母さんとのスレッドを開いていると、メッセージに既読が付いていた。

あまりにも唐突(とうとつ)な出来事に頭が追いつかず、心臓は痛いくらいに脈打っていた。

期待しながらしばらく画面に釘付けになっていたけれど、結局どれだけ待っても返事が来ることなんてなかった。

思い切って通話ボタンをタップしようかとも思ったけど、そこから先に進む勇気なんて持ち合わせていなくて画面を閉じた。

それ以来、私はメッセージを送ることはもちろん、スレッドを開くことすらやめてしまった。

今までのメッセージがミコに読まれたと思うと、机に頭を打ちつけたくなるほど恥ずかしくなったってのもあるけれど、それ以上に、お母さんが近くにいるとわかった途端、このスレッド自体の存在意味が薄れてきた。あんなに大事だったのに。


家に帰って自分の部屋に入ると、すぐに着替えてお父さんが呼ぶ前にキッチンへと向かう。

お父さんは仕事が早く終わると、夕食後にリビングで映画を観るようになった。しかもわざわざ高そうなプロジェクターとスピーカーを買って部屋を劇場に変えてしまう凝りようだ。

この前なんてわざわざポップコーンの素を買ってきた。

調理するところを隣で見ていたら、すぐにお父さんはフライパンを(あお)る役を私に譲ってくれた。

蓋をしたフライパンをひたすらジャラジャラと煽っていると、次第に蓋の内側から耳当たりの良い音が聞こえてきて、ちょっと癖になりそうだった。

出来上がりを食べたら味がなくて、お店で売っているものは既に味付けがされているものなんだって、今更気が付いた。