「もう大丈夫そうだね」
「ありがとう」
須藤君はミコを無事に保健室に運び終えると、何事も無かったように立ち去ってしまった。
誰もが傍観者に回る中、唯一手を貸してくれたのは、名前を思い出すのにも時間が掛かった地味なクラスメイト。
彼が手を貸してくれるなんて思ってもみなくて、私は離れ間際にお礼を言うだけで精一杯だった。
冷房が効いた保健室は、人工的な清潔感のような独特な匂いがする。
幸いミコは保健室で先生からもらった水を飲んでベッドに横になると、すぐに顔色が良くなった。
「イチ……ごめんね」
ミコはベッドから起き上がると、すぐにベッドに腰掛けている私の隣に座り直した。
「ひょっとして、アレルギー持ちか何かなの?」
「えっと、体質的なものもあるんだけど、実は昔から人前で何かを食べることができないんだ。無理に食べようとすると、こうやって胃が受け付けなくて、さっきみたいに気持ち悪くなっちゃうんだ。少しだけならって思って頑張ってみたけど、やっぱり駄目みたい」
そんなに他人事のように笑われても。私の方が反応に困るじゃんか。
「家ではちゃんと食べられてるの?」
「1人だったら大丈夫。でも、誰かがいると駄目なの」
「お母さんやお父さんでも?」
「うん、少しでも緊張すると、駄目なんだ」
お父さんやお母さんの前でも緊張するんだ……。
「心配されない?」
「実際心配かけてる。私、小さい頃からこんなだから、身体も弱くて何度も病院のお世話になってるんだ」
この先もずっと病院のお世話になるんだよ。なんて言えやしない。