ミコは教室に戻る途中もずっと懲りずに空ばかり眺めながら歩いていた。
あまりにも前を見ないものだから、ほかの生徒と何度もぶつかりそうになったから、仕方なくミコの手を引いて歩いた。ショックを受けていると心配になったけど、案外神経は図太いみたいで安心した。
「イチ、怒ってる?」
「別に。もうあそこには行っちゃ駄目」
「どうして?」
「面倒な連中が沢山いたでしょ。ミコ、もうちょっと一緒にいる人を選んだ方が良いよ」
「良い人だったよ。ケイって子も、イチが来るまで優しかったし」
「何それ。来ない方が良かったって言いたいわけ?」
「違うよ……」
ああ、むかつく。私っていっつもこう。
また無意味にお母さんを思い出してしまう。
私が友達のことを愚痴ると、お母さんは決まってどんな人でも必ず良いところがあると訂正してきた。
「私、ミコが嘘付きだって知らなかった。でも、もう良い。別に私にはどうでもいい」
幼稚な言葉を投げつけたのは、心のどこかで受け止めてくれるって思ったから。そして言い過ぎたことはいつも言ってから気が付くんだ。
「私、イチに嘘なんて付いてないよ」
そう言ってミコは繋いだ手を振り払い、私の顔を睨みつけた。
「じゃあ、どうしてあの時食べられないって言ったの!」
「食べられないのは本当だよ。でも、あの場所では、食べないといけない気がしたの」
都合の良い言い訳のようにも聞こえるけど、伝えたいのはそこじゃないってことくらい私にだってわかる。だって心当たりがあるから。
その場を円滑にやり過ごすためには、取らなければいけない行動がある。私がいつもやってることだ。
自然体に振る舞うミコにはこういう計算高いことには縁がないんだって思っていたけれど、そうじゃない。ちゃんと身に付けているんだ。
そう思うと、沸騰した感情が一気に冷め、代わりに申し訳なさと恥ずかしさが脳を支配した。
気まずい時間が流れるのを覚悟した。けれど、そんな心配をする必要はなかった。
「ちょっと……ミコ?」
「う……気持ち、悪い」
突然口を抑えながらその場にしゃがみ込んでしまったミコに、私はどうすることもできなかった。
「どうしよう……だ、誰か」
いつも通っている廊下が、私達のせいでいつもの光景ではなくなる。
見ず知らずのクラスメイトは私達の前で足は止めるけれど、みんな私と一緒でどうしたら良いのかわからず、ただ様子を見るので精一杯だった。
やがて見覚えのある1人の男の子が駆け寄ってきてくれた。
「ほら、陽木さんも手伝って。2人で支えよう」
「う、うん」
肩を貸してくれたのは須藤君だった。