部活が終わって、くたくたになりながら自転車を30分ほど漕ぐと、ようやく家に辿り着く。

玄関隣にある塀の隙間に自転車を突っ込んで、ふうと大きく息を吐くと、全身の緊張が弛緩するようにふわっと身体が軽くなる。けれど直後に鉛のマントを羽織ったかように、全身に重力を感じる。

繕う必要がなくなった途端、いつもこうだ。

玄関の扉を開ける前にもう一度大きく息を吸ってから、わざとらしく音を立てて扉を開ける。

靴を脱ぎ散らかし、一目散にリビングに向かうと、奥のキッチンで夕飯を作ってくれているお父さんに向かって残りの体力と気力を全部乗っけた「ただいま」を投げつけておく。

聞こえるかどうかわからない返事が返ってくる前に急いで洗面所に行き、雑に手洗いうがいを済ませ、2階へと急ぐ。

階段を上がってすぐ手前、真っ暗になりきっていない自分の部屋で、5秒くらいぎゅっと目を(つぶ)る。

目が慣れたら、机の上に置いてあるお母さんの写真を手に取り、そのままベッドに崩れ落ちる。お父さんに心配かけちゃいけないから、5分だけ。

ポケットからスマホを取り出し、メッセージアプリでお母さんとのスレッドをタップする。

既読が付かない一方的に投げた言葉は全部私が書いたものだ。

決して無視されているわけでなはい。

お母さんは、もういない。