自分でお弁当を作るようになったせいで、ミコと秘密の場所に行く機会はなくなった。

お弁当にしたのは、毎日のお昼代が馬鹿にならないからっていうのもあるけれど、あの場所がうるさい男子達にばれてしまったのが1番の理由だった。

ちょっと悔しいけど、見つかるのは時間の問題だと思っていたから、余計な感情はぐっと呑み込んで忘れてしまおう。

ご飯を食べないミコからすると、私以上にあの場所の存在は大きかった。

控えめな性格が足を引っ張っているのか、お昼休みになると居場所が見つからないらしく、ミコはチャイムが鳴るとすぐに教室を出て行くようになった。

保健室に避難している、なんて変な噂が立っているような気がするけれど、むしろそっちの方が良いんじゃないかなって私は思う。

本当はもっとミコと一緒に居たいけど、今は目の前にいるこの子らのバンドの話を聞く時間だからごめんね。

私はそのバンドに全く興味が無いんだけど、いつの間にかこの子達の話を(さえぎ)らずに頷いていたらこうなってしまった。

失望されるのが怖くて、つい共感したように振る舞ってしまう悪い癖は相変わらず治らない。

話している相手にスマホを見せるのは、さり気なく相手に興味が無いのを示すサイン。

普段の私なら絶対に話の腰を折るようなことはしないのだけれど、なぜかスマホから伝わってくる微かな振動を無視することができなかった。

罪滅ぼしのつもりで小さくごめんねと言いながら、一応は精一杯申し訳なさそうにしてスマホの画面を覗く。


ケイ:『あんたのお母さん、うちらのとこ来てるけど、どうする』


どうするったって……。

メッセージと一緒に送られてきたのは、つい最近まで私達が寛いでいたあの場所の写真だった。もー、何やってんの。


「ごめん、急にお腹痛くなってきちゃった」
 
「いっちゃん、大丈夫?最近お腹の調子悪すぎない?」

「あ、いや、ちょっと保健室に行ってくるね。ごめんね」


スマホを見た直後のこの発言は不自然にも程がある。

けれど二人は私の咄嗟(とっさ)の演技に緊急性を感じてくれたのか、この場から退場することをあっさり許してくれた。ほんとごめん。二人だけの方が盛り上がるよ、きっと。

食べかけのお弁当に申し訳ないと思いながら(ふた)をしてカバンにしまうと、私はすぐに教室を出て保健室へと急ぐ。

焦っていることを悟られないように、でも、できる限り早く。

ミコがどこに居ようが私には関係無い。

でも、ケイが仲良くしているのは校則なんてまるで通用しない厄介な連中ばかりだからやっぱり心配だ。

ケイとミコは全くの無関係だから、何かあってもケイはミコの味方には決してならない。

ケイは基本に他人に厳しめなんだってことを忘れちゃいけない。