「過去から来るくらいだからさ、名前なんてどうとでもできるよ、きっと。わざと1文字変えるのは、タイムスリッパーの常套手段なわけだし」
したことあるのかよお前は、って突っ込みたくなったけど楽しそうだからまあいいや。
たまに幽霊が出てくる漫画とかホラー小説にどはまりする時があるから、この手の話題に飢えていたのかもしれない。
「あの子、やたら伊智にベタベタしてるなって思ってたら、そういうことだったんだ」
「も、もしそうだとしたらさ、お母さんはどうしてこの世界に来たと思う?」
「娘のあんたのところに来たんだから、あんたに言い忘れたことでもあるんじゃない?知らんけど」
「うわ、出た。責任逃れ」
「あんたの発言にドン引きしないだけ感謝しな。仲良くしてたらそのうち見えてくるんじゃない?ほら、優等生になる時間がやってきた。もう私に話しかけんな」
思いっきり苦いものを噛んだような顔を向けてやったら、もともと棘のあるケイの言葉がさらに際立ってしまった。
もちろんケイは私なんかの言葉で怒るような単純な子じゃない。やっていることは単純なことが多いけど。
ケイは出席日数を計算しながら器用に授業を抜け出すような計算高さを持っているくせに、仲良くしているのは単純なことしか考えていなさそうなクラスメイトばかり。
いつも生徒指導の先生にマークされている男子達と平気で学校を抜け出して、そのまま戻ってこなくなることも少なくない。
厄介な生徒に分類されてしまっているケイと、優等生の私は接点を持たない方がお互いのため。そう思うようになって、いつの間にか必要に応じて距離を取るようになった。
私達は教室に戻ると、それぞれ納まりどころの良い役を演じる。
本人には言わないけど、ケイはケイで変わってしまったと思う。でも私は心配していない。
計算高いケイのことだから、きっとそんなことをするのは今のうちだけで、頃合いを見計らって急に更生したかのように私の方に寝返るはずだ。
そうなったら初めは無視してやるつもりだけど、しばらくしたらすんなりと受け入れてしまうだろう。
縋ろうとすると突き放すくせに、いざという時はしれっと受け止めてくれる子だって知ってるから。
「ありがと。ケイに話して良かった。今度一緒に帰ろ」
「断る。あんたはお母さんと帰りな」
視聴覚教室に入って教卓にノートを置くと、私達はそれぞれのあるべきところへ還っていく。
ミコが押さえておいてくれた席に着くと、彼女はにこにこしながら移動中に拾った真っ黒な鳥の羽を見せてくれたから、苦笑いをしておいた。