ミコがスマホを持つようになったのは、必要以上に私が薦めたからでもあると思う。だから少しは責任を感じている。
スマホを勧めたのは、もちろんミコと連絡できるようになりたかったのもあるけれど、綺麗なものを綺麗と言えるミコだったら、目に映っているものをどう残してくれるのか興味があったのが大きい。
前に一度私のスマホで写真や動画の撮り方を教えたら、ミコはすぐに目を輝かせて生い茂った桜の樹や、澄んだ空を画面に収めていた。
気軽に撮影ができるのを相当気に入ったのか、ミコは1週間もしないうちに自分のポケットから真っ白なスマホを取り出すようになった。
人を惹きつける雰囲気を持つミコがスマホを買ったことは、クラスの中でちょっとした話題として広まった。
カヨちゃんをはじめ、何人かのクラスメイトは連絡先を聞こうとミコの元へと押しかけた。けれど、あろうことかミコはそれを全部断っていた。
もちろん玉砕していた中には私も入っている。
ちょっとだけ悲しくなったし、ますますミコが何を考えているのかわからなくなった。
「お待たせ、ケイ」
「あいよー」
40人分のノートを1人で持つのは大変だからって付いて来てくれたケイは、先生と顔を合わせるのを避けているみたいで、職員室には入らず、入り口で待ってくれていた。
綺麗に半分じゃなくて少しだけ私の方のが多いのは、変に気を遣わせないようにというケイなりの配慮だと思うようにしている。
次の選択授業は視聴覚室だから早めに移動しないと。ミコは先に行ってるのかな、それとも待ってくれていたりして。
「伊智、あんたカレシでもできた?」
「何?その雑な絡み」
「別に。顔がとろけてたから、カレシのことでも考えているのかこいつって思っただけ」
「考えてないし。そもそもカレシなんていないし」
「そ、残念。でも、何か良い事あったでしょ。最近の伊智、痛々しさを感じない」
「痛々しさって?」
ずり落ちそうになったノートの束を抱え直す。
「”ふり”をしているのがバレバレってこと。あんた、学校では完璧に振る舞おうとして、痛々しかった。けど最近のあんたは、バカっぽさが戻ってきた。さっきの奇行といい、良かったよ。うん」
「うるさい。どうせケイも面白がってたんでしょ?」
「あれを面白い以外にどう受け止めろと」
相変わらず口が悪いなこいつは、なんて思うんだけど、ケイとは幼稚園からの長い付き合いで、私の家庭の事情を知っている数少ない人間でもあるからまあ許してやる。
「バカっぽさが戻ってきたって、そんなの退化じゃん」
吐き捨てるようにそう言うと、ケイは弱めに肩をぶつけてきた。香水をしているのだろう、ケイからは涼しげなオレンジの香りが漂ってきた。
「褒めてるんだって。私はそっちの方が好き」
「私、いつから痛くなったのかな」
溜息混じりにそう訊くと、ケイは迷わず
「美琴さんが亡くなってから」
と言った。