「おーい。陽木、聞いてるか?」

「ヘぁ、はい……!すみません」

「64ページの公式使って黒板の問題を解いてみろ、と言いたいが、陽木、お前別のページ開いてるぞ」

「す、すみません……」

「珍しいな。じゃあ、後ろの藤野、代わりにやってみろ」


いつもならすぐに答えられたはずなのに。もう最悪。どこかで減点分を取り直さないと。

聞こえないように溜息(ためいき)()きながら窓の方に視線をやると、ミコは頬杖をつきながらぼうっと空を眺めていた。

先生の話はもちろん、私たちの存在すらミコには見えていないような、そんなうわの空だった。

最近しょっちゅうノートを写させて欲しいって言って来るくせに、そんなにぼーっとしてたら意味無いじゃん。って、今は人のこと言えないけど。

……ん?


「どわあっ!」


咄嗟(とっさ)にわざとらしく声を張り上げ、大袈裟に立ち上がる。

勢い良く立ち上がったせいで、思い切り椅子を弾いて後ろの席の藤野ちゃんの机にぶつけてしまった。


「さっきからどうした。陽木」

「いえ、すみません。ちょっと、最近体調が悪くて……」

「そんなに体調悪かったら、保健室行ってこい」

「だ、大丈夫です、頑張ります」


私史上最大の奇行をしたのは全部ミコのせいだ。

だってあいつ、さっきポケットからスマホを取り出して空に向け始めやがった。もし私がいなかったら、今頃堂々とシャッター音を響かせていたに違いない。

力技とはいえ無事にミコを救うことには成功したけれど、代償は安くなさそう。

再びクラスメイトのほぼ全員の視線を集めた私は、言うまでもなく顔から火が出るほど恥ずかしい思いをした。

「ついに壊れちまったかうちのクラス委員は」って顔に書いてたのもわかったし、後ろの席の藤野さんなんて、びっくりしすぎてまだ固まっている。本当ごめんね。