あの日以来、私とミコの距離は一気に縮まったと思う。

だって今まではあんなに人の目を気にしていたのに、ミコは休み時間になると真っ先に私のところに来るようになったから。

けれど仲が深まるほどミコとの間には見えない溝があるような気もするんだ。ミコは相変わらず自分のことになると、(かたく)なに口を(つぐ)んで私の話にすり替えようとする。

ミコ、ううん、お母さんはどうしてこの時代この場所にやってきたのだろう。

今はどこに住んでいて、どこから通学しているんだろう。

知りたいことはたくさんあるのに、ミコは何一つ教えてくれない。通学途中で見つけた花や鳥の話は飽きるほどしてくれるのにさ。

本当は興味がないけれど、もしかすると話の中に手掛かりが隠れているかもしれないからって真剣に聞いてみると、それが嬉しいことみたいで、さらにミコの雑談に拍車が掛かる。

今日は道の端に足を怪我した雀の(ひな)が落ちていて悲しくなったらしい。

正体が判明してしまうと、元の時代に戻らなければいけない。もし、ミコがそういう(ちぎ)りを悪魔、いや、神様と交わしているんだとしたら、無理に秘密を暴こうとはしないほうが良いのではないだろうか。

秘密を知ってしまったせいでミコと離れ離れになるくらいだったら、今のままで良い。

でも、でもさ。

よく考えるとミコがこの時代この世界にいること自体があり得ないことでもある。もしミコがこの世界に留まり続けることになったら、過去のお母さんの時代は一体どうなるの?

私は決して良くない頭を必死に働かせる。

見開きが真っ白なページを開き、それぞれのページの真ん中に「ミコ」と「私」と書いて丸で囲む。

少なくともミコは過去の時代からタイムスリップしてきている。ええと、戻らないと一体どうなるんだ。

思い付くことを散りばめながら、少しずつ頭の中を整理する。

学生時代のお母さんがこの時代にいると、過去のお母さんはいなくなる。そうなるとお母さんのその後の歴史がぽっかりと抜けてしまう。

それって、お父さんや私にも関係してくるんじゃないの?

お父さんはお母さんと出会うことがなくなって、私はこの世に存在しなくなるってことだ。

今のところは大丈夫みたいだけど、もし、ミコがこの時代に留まることが決まったら私の存在が危ない。

そうなると、神様は私を削除しようとするんじゃないの?急にお腹が痛くなってきた。

でも、ちょっと待って。

お母さんはこの時代にいる方が良いのかもしれない。

だって、その方が長生きできるかもしれないから。20年後のこの時代で過ごすことで、少なくともお母さんの生活環境自体は変わるはず。

それに、間違いなく今の時代の方が医療技術も進歩しているだろう。仮に病気になっても治る可能性が高いのではないか。

だったら。

お母さんが長生きできる方が良いに決まってる。

前言撤回。神様、私はどうなっても良いので、どうかお母さんをこの世界に(とど)めてあげてください。

あ、でも、せめて私を消す時は、痛くないようにお願いします。