きっと悪ノリに合わせてくれてたんだと思う。

なのに、私の目をまっすぐに見つめながらそんなことを言われると、冗談には思えなくなってくる。

意識すればするほど、ミコとお母さんがぴたりと重なる。

決して高くない身長、真っ白な肌の色、おっとりした話し方、時折見せる真剣な眼差し。全部お母さんとそっくりだ。

決定的だったのは、お母さんの名前が美琴(みこと)だってこと。偶然だとは思えない。


「ひょっとしてミコは……私のお母さんなの？」


意味わかんないって笑ってくれれば良かったのに、ミコは隠していた何かを暴かれたように、気まずそうな表情を作った。


「イチ、ふざけてごめんね」


どういう意味で？

そう思ったのだけれど、これ以上ミコを困らせるわけにもいかなかった。重苦しい空気は私が1番嫌いだった。


「私こそごめん。私、勝手にミコにお母さんを重ねようとしてた。さっき言ったことは、全部忘れて」


クラスメイトに自分のお母さんの面影を重ねるなんてどうかしてる。ミコ、ごめんね。


「え、ちょっと……」


申し訳なくなってミコから背(そむ)けて座り直すと、すぐに背中に柔らかな感触が伝わってきた。


「ミコ……どうしたの？」

「だって、イチ、泣いてるから」


言われてからようやく気が付いた。

ミコはしばらく私を抱きしめたままじっとする。

覚えのある匂いと感触が伝わってくる。私は鼻を啜る音が聞こえないようにゆっくりと息を整えると、背中からミコの心音がわずかに伝わってきた。人の心音を聞くと、どうしてこんなに気持ちが穏やかにするのだろう。

ミコの心音は驚くほどゆっくりで、それが亡くなる前のお母さんのものとそっくりだった。

やっぱり、ミコはお母さんじゃないの？お母さんは、何か事情があってこの時代にやってきたんじゃないの？

そんな物語みたいなことが現実世界に起こるはずなんて。

けれど、

お母さんは、私に会いに来た。そう信じさせてほしい。


「お母さん、会いたかった……」


私はミコの胸に顔を埋(うず)めて、今まで堰(せ)き止めていたものを吐き出した。ミコはしばらく黙ったまま、抱きしめる力を緩めなかった。