少しの圧迫感を感じて目を擦る。
(なんだ君か)
体を君の方へ向けて、布と布の擦れる音がなんだかひどく哀しくて。
カーテンから差し込んだ太陽の光が「ほらもうこんな時間だよ」って私たちを羨んでるわなんてね。君の愛おしい寝顔から目線を外すと初デートで君が私にくれたちいさな青緑のサボテンと目が合った。思わず笑みがこぼれてしまう。
君のための歌を作ったらそんな歌詞を描きたい。きっと誰もが口ずさむ歌になるだろう。
そうなったらどこのカラオケボックスからも君への歌が聴こえてきちゃいそうで、ちょっと嫉妬しちゃうかも。
私は君のリズム感のないちょっと下手な歌い方が好きだから。私の作った曲をいつか歌ってみせてね。
そんなことを思いながらいつのまにか味のしない涙が溢れてた。
空腹で気持ち悪くなったお腹の感覚がこんなにも苦しいのは君への気持ちがどうも大きくなりすぎてしまったのかな。

電話越しに聞こえる君の甘い声はいつも優しいベールみたいで私の傷を癒してくれるから、私も君のバンドエイドくらいにはなりたくて、君の好きなところをこの声に乗せて伝えていたけれど、君にはちゃんと伝わってたかな。伝わっていなかったかも。一番伝えたいことほど物事の奥深くに埋まってしまうものなのだろう。私が一番伝えたかったのは愛してるではないような気がする。

細くて白い腕。でも私よりも筋肉のついた腕。愛おしい君の寝顔。キスはまた今度会った時に取っておくわ。
そうだね、少し昔話をしましょう。
あの春の日のこと覚えているかしら。
「大して綺麗じゃなくなった私を君は愛してくれる?」私が突然した質問に貴方はどう答えたか。忘れちゃってるでしょうね。
じゃあ答え。「もう手遅れだね」なんて笑いかけてきた君に「どういう意味よ」って掴みかかってやろうとしたけれど、君の私を見るその目があまりに優しくて。思わず抱きしめてしまった。不覚にも心臓をグッと掴まれて、また好きになっちゃったんだった。

錆びた歯車を廻すような日々___
真っ白なシーツを撫でて、鮮烈な消毒液の匂いに混ざるほんの少しの君の匂いに嗅覚が奪われた。

そこに君はいない。