「菜代ー、今日この後合コンだけど来るー?」
「あー、いいや。バイトあるし。」
サークルメンバーから毎回誘われる合コン。別に、出会い求めてこの大学に入学した訳じゃないっつーの。
ていうか、バイトあるって知ってる上で誘ってるだろこいつ。
学校が終わった途端、いつものCDショップへとかけつけた。
カランコロンと音が鳴り響く。
店長の八田ちゃんはにっこり笑顔で「はい、仕事♡」と言ってくる。いい歳したおっさんがなにしてんだが。まぁ今日も働くけどさ。
「じゃ、品出しよろしくぅー」
「年老いて機械音痴になってきたおっちゃんがレジできんのかー?まぁやるけどー。」
店長との仲は高校から相変わらずだ。
カランコロンと鈴を鳴らし、客はいつも通りやってくる。
「菜代?」
品出ししていたちょうどその時、聞き覚えのある声が耳に響いた。
「夜夢。」
最後に見た時は高3の頃だろうか。いや、もうなにも思い出したくない。
「久しぶり、菜代。あのさ、」
会話の内容はほとんど察しがついた。もうすぐで夏祭り。
「着いてきてほしいところがあるんだ。1人じゃ行けないから、菜代に着いてきてほしくて。」
「…?別にいいけど…」
「助かる!じゃあ、明日!明日の学校終わりに浴衣着てCDショップの前集合!」
「急だね。別にいいんだけどさ。」
その日の夜は、なんだか寝れる気分じゃなかった。
朝起きれば、またいつもの朝。私服に着替えて大学へ向かう。
蒸し暑い外。歩きたくないくらい日差しが強い。大学に着いても、授業には全然集中出来なかった。サークルの友達からは、「医学部なのにどうしたのよ」とかいじられたりして。
授業が終わればすぐさま家に帰った。
約束の場所に行くために。
クローゼットを漁って、必死に浴衣を探す。
浴衣、ではないが、成人式に着ていく予定の着物を1着見つけた。
一人暮らしをする前に、成人式用の着物を買ってもらったのを思い出した。
「お母さん、ありがとう」
とだけ呟いて、私はその1着を手に取った。
着物は中々着ないため、少し手間がかかってしまったが、無事に着ることが出来た。
早く行かなければ。私は早々と家を出た。
CDショップには、浴衣を着た彼が待っている。
「菜代ー!」
彼がこちらに気づいたのか、笑顔で手を振ってくる。
早足でCDショップに着くと、彼は「行こうか」とだけ呟いて歩き出した。
「菜代って、浴衣似合うね。」
「いや、これ浴衣じゃなくて、成人式に着る用の着物なんだよね笑」
「そうなんだ。でも似合う。」
「ありがとう。」
他愛もない話をしながら彼について行く。
「ついた。」
なんとなく予想はついてた。
たくさんの屋台が並んでいる。夏祭りだ。
久々に見る夏祭りは、賑やかだった。
私の知らない屋台まで出てて、なんだか、子供の頃に戻ったような気がした。
「ちょっとまっててね。」
彼はそういって、どこかへ向かった。
言われた通り、私はただ黙って彼を待ってるだけ。少しすれば、彼は両手に紙コップを持って戻ってきた。
「じゃじゃーん。焼きとうもろこし!」
紙コップの中には、串が刺された焼きとうもろこしが入っていた。
「好きだったよね。菜代。」
なぜ私の好物を知ってるのだろうか?
夏祭りは幼少期のあのことがあって以来一度も行っていないはずなのに。
「菜代。ちょっと着いてきてくれないかな。」
彼はそういってまた歩き出した。
少しすれば、一面に広がる芝生の広場に辿り着いた。
「少し、話したいことがある。」
芝生に2人座り込んで彼は言った。
「俺のこと、覚えてない?」
「え?」
なんのことかよくわからない。そして彼はまたもう1つ質問を投げてきた。
「初めて出会った時のこと、覚えてる?」
初めて出会った。それって、私が高校3年生で、バイトしてた時じゃないの?それが一体どうかしたのだろうか?
「CDショップでバイトしてた時でしょ?」
私がそう言うと、彼は横に首を振った。
「違うよ。幼稚園の時だよ。」
信じられなかった。なにも知らない。彼と出会った覚えがない。
「幼少期の頃にさ、一緒に夏祭り行ったじゃん。」
夏祭り?もしかして、あの一緒にいた男の子が、深田夜夢なの?
混乱している私に、彼は優しく説明してくれた。
「一緒に夏祭り行った時、菜代がお母さんとはぐれたとき、傍で見守ってあげたの、俺だからね?それに、ここで一緒に花火見ながら焼きとうもろこしおいしいって言ってたの菜代だったじゃん。」
どんどん記憶が蘇ってくる。
そうだ、あの時一緒に居たのは、彼だったんだ。お母さんとはぐれた時、人混みに押されながら、怖がっていた私の手を引っ張ってくれたのは、彼だったんだ。
レジャーシートを敷いて、この芝生で一緒に焼きとうもろこしを食べながら花火を見たのは、彼だったんだ。
私の視界が、一気に明るくなったような気がした。
「ほら見て、綺麗な花火だよ。」
今までうるさく感じていた花火も、今日は何故か、とてつもなく静かに感じた。
幼稚園、小学校、中学校が一緒だった彼。
今、全て思い出した。
中学で琴夏のことで一時期不登校になったこともあった。それを慰めてくれたのは、彼だった。高校で離れてからは、彼はたったの2年でアイドルとして人気になり、去年の春、アイドルとして私に会いに来た。
「あの時、菜代は俺の事覚えてないだろうなって思ったから、こんな形になっちゃったけど、菜代に会えてほんとに良かった。」
その瞬間、今までより大きい花火が空に舞い上がった。
「菜代のことが、好きだ。」
花火に紛れて言えたとでも思ったのだろうか。
思いっきり聞こえてるっつーの。
「…聞こえてるし。」
私はボソッと呟いた。
次の瞬間、さっきよりも大きく、綺麗な花火が舞い散った。
「あー、いいや。バイトあるし。」
サークルメンバーから毎回誘われる合コン。別に、出会い求めてこの大学に入学した訳じゃないっつーの。
ていうか、バイトあるって知ってる上で誘ってるだろこいつ。
学校が終わった途端、いつものCDショップへとかけつけた。
カランコロンと音が鳴り響く。
店長の八田ちゃんはにっこり笑顔で「はい、仕事♡」と言ってくる。いい歳したおっさんがなにしてんだが。まぁ今日も働くけどさ。
「じゃ、品出しよろしくぅー」
「年老いて機械音痴になってきたおっちゃんがレジできんのかー?まぁやるけどー。」
店長との仲は高校から相変わらずだ。
カランコロンと鈴を鳴らし、客はいつも通りやってくる。
「菜代?」
品出ししていたちょうどその時、聞き覚えのある声が耳に響いた。
「夜夢。」
最後に見た時は高3の頃だろうか。いや、もうなにも思い出したくない。
「久しぶり、菜代。あのさ、」
会話の内容はほとんど察しがついた。もうすぐで夏祭り。
「着いてきてほしいところがあるんだ。1人じゃ行けないから、菜代に着いてきてほしくて。」
「…?別にいいけど…」
「助かる!じゃあ、明日!明日の学校終わりに浴衣着てCDショップの前集合!」
「急だね。別にいいんだけどさ。」
その日の夜は、なんだか寝れる気分じゃなかった。
朝起きれば、またいつもの朝。私服に着替えて大学へ向かう。
蒸し暑い外。歩きたくないくらい日差しが強い。大学に着いても、授業には全然集中出来なかった。サークルの友達からは、「医学部なのにどうしたのよ」とかいじられたりして。
授業が終わればすぐさま家に帰った。
約束の場所に行くために。
クローゼットを漁って、必死に浴衣を探す。
浴衣、ではないが、成人式に着ていく予定の着物を1着見つけた。
一人暮らしをする前に、成人式用の着物を買ってもらったのを思い出した。
「お母さん、ありがとう」
とだけ呟いて、私はその1着を手に取った。
着物は中々着ないため、少し手間がかかってしまったが、無事に着ることが出来た。
早く行かなければ。私は早々と家を出た。
CDショップには、浴衣を着た彼が待っている。
「菜代ー!」
彼がこちらに気づいたのか、笑顔で手を振ってくる。
早足でCDショップに着くと、彼は「行こうか」とだけ呟いて歩き出した。
「菜代って、浴衣似合うね。」
「いや、これ浴衣じゃなくて、成人式に着る用の着物なんだよね笑」
「そうなんだ。でも似合う。」
「ありがとう。」
他愛もない話をしながら彼について行く。
「ついた。」
なんとなく予想はついてた。
たくさんの屋台が並んでいる。夏祭りだ。
久々に見る夏祭りは、賑やかだった。
私の知らない屋台まで出てて、なんだか、子供の頃に戻ったような気がした。
「ちょっとまっててね。」
彼はそういって、どこかへ向かった。
言われた通り、私はただ黙って彼を待ってるだけ。少しすれば、彼は両手に紙コップを持って戻ってきた。
「じゃじゃーん。焼きとうもろこし!」
紙コップの中には、串が刺された焼きとうもろこしが入っていた。
「好きだったよね。菜代。」
なぜ私の好物を知ってるのだろうか?
夏祭りは幼少期のあのことがあって以来一度も行っていないはずなのに。
「菜代。ちょっと着いてきてくれないかな。」
彼はそういってまた歩き出した。
少しすれば、一面に広がる芝生の広場に辿り着いた。
「少し、話したいことがある。」
芝生に2人座り込んで彼は言った。
「俺のこと、覚えてない?」
「え?」
なんのことかよくわからない。そして彼はまたもう1つ質問を投げてきた。
「初めて出会った時のこと、覚えてる?」
初めて出会った。それって、私が高校3年生で、バイトしてた時じゃないの?それが一体どうかしたのだろうか?
「CDショップでバイトしてた時でしょ?」
私がそう言うと、彼は横に首を振った。
「違うよ。幼稚園の時だよ。」
信じられなかった。なにも知らない。彼と出会った覚えがない。
「幼少期の頃にさ、一緒に夏祭り行ったじゃん。」
夏祭り?もしかして、あの一緒にいた男の子が、深田夜夢なの?
混乱している私に、彼は優しく説明してくれた。
「一緒に夏祭り行った時、菜代がお母さんとはぐれたとき、傍で見守ってあげたの、俺だからね?それに、ここで一緒に花火見ながら焼きとうもろこしおいしいって言ってたの菜代だったじゃん。」
どんどん記憶が蘇ってくる。
そうだ、あの時一緒に居たのは、彼だったんだ。お母さんとはぐれた時、人混みに押されながら、怖がっていた私の手を引っ張ってくれたのは、彼だったんだ。
レジャーシートを敷いて、この芝生で一緒に焼きとうもろこしを食べながら花火を見たのは、彼だったんだ。
私の視界が、一気に明るくなったような気がした。
「ほら見て、綺麗な花火だよ。」
今までうるさく感じていた花火も、今日は何故か、とてつもなく静かに感じた。
幼稚園、小学校、中学校が一緒だった彼。
今、全て思い出した。
中学で琴夏のことで一時期不登校になったこともあった。それを慰めてくれたのは、彼だった。高校で離れてからは、彼はたったの2年でアイドルとして人気になり、去年の春、アイドルとして私に会いに来た。
「あの時、菜代は俺の事覚えてないだろうなって思ったから、こんな形になっちゃったけど、菜代に会えてほんとに良かった。」
その瞬間、今までより大きい花火が空に舞い上がった。
「菜代のことが、好きだ。」
花火に紛れて言えたとでも思ったのだろうか。
思いっきり聞こえてるっつーの。
「…聞こえてるし。」
私はボソッと呟いた。
次の瞬間、さっきよりも大きく、綺麗な花火が舞い散った。