夏休みが明け、普段の学校生活が再開した。
CDショップでいつも通り働いているが、彼は夏休みが明け受験勉強が忙しいらしく、ココ最近は見かけていない。アイドル活動も、現在休止中らしい。ドラマは来年に持ち越すとか言ってたかな。まあ、私には関係ないかな。
夜夢から貰った夏祭りのお土産。キラキラ輝くスーパーボールに、なんか、巨大なハンマー型の風船みたいなやつ(?)
スーパーボールを見つめてぼーっとしながらレジに立つ私。
このスーパーボール、見たことあるんだよね。
いつどこで見たかわからないけど。
スーパーボールをじっと見つめていると、あることを思い出した。
中学時代、親友だった並木琴夏(なみき ことか)が事故で、私の前から消え去った。
琴夏は、私と真逆で、夏祭りが大好きだった。
中2の夏。琴夏から、少し離れた神社で祭りが行われるというのを聞いた。もちろん私は断った。夏祭りは、嫌いだから。
琴夏は悲しそうな顔して言った。
「あちゃー。行けないの悲しいな〜…。じゃあ、菜代の分まで夏祭り、楽しんで来るね!」
人一倍思いやりの心を持っている琴夏。
そんな琴夏から、強盗にあったと連絡が来た時は、自分が自分でないような気がした。
酷い強盗だった。逃げられないように足に傷を沢山つけて、琴夏の前で母親の命を奪ったり、ペットとして飼っていた犬のマホを脅かしたりして、琴夏や琴夏の家族を傷つけた。
沢山命を奪った後、強盗はすぐさま琴夏の家から出てきて逃走した。
中に入ると、全てが赤かった。
そんな中、琴夏の声がリビングから耳に入ってきた。
「琴夏!?生きてるの…!?返事して!!」
「な…よ…最後に…渡したい…ものが…あるの…」
「渡したいもの…?」
「こ…れ…」
琴夏が最後の力を振り絞って、制服のポケットからスーパーボールの入った袋を取り出した。
「きれい…だよねぇ…。ともだちと…とったん…だよー…」
「琴夏…!!」
「なよ…たぶん…もうむりかも…うちのかぞく…ぜんいん…」
「琴夏…もう大丈夫だよ…口…切れてるよ…」
「はは…たぶん…切られたんだぁ…」
「琴夏…琴夏ぁ!!!!」
「なよ…わたしの…ぶんまで…いきてね…スーパーボール…なくしたら…ゆるさない…からねー…」
琴夏の最後は笑顔で終わった。
強盗は無事捕まったらしいけど、まだ、許せないなぁ。真っ赤に染まった家の中で、私1人、スーパーボールを抱えて泣き叫んだ。
琴夏と、琴夏の家族の葬式が行われた時、私は感情を失った。感情を失うのには慣れてる。多分。すぐなおる。だか、それは中々なおるものではなかった。頑張って学校には行ってたものの、授業は集中出来ないし、友達と会話してても琴夏のことが気になってしょうがない。
なんとか自我を取り戻し、推薦取るためにテストは毎回満点をとり、授業も頑張って耳を傾けた。けど、あの努力は全て無駄だったのだろうか。あいつのせいで。あいつさえ。
「あのー…」
「あ、すいません。こちら袋つけますか?」
ぼーっとしてた。思い出したくない思い出ばっかり。いっそのことすべてリセット出来ないかなー。
「こちらレシートです。ありがとうございましたー。」
完全にぼーっとしてたや。あー、さっきのお客さんに思いっきり感謝したい…。
そして今までの思い出全部リセットしたい…。
「おい菜代ー?」
「なんすかてんちょー」
「お前もそろそろ大学受験だろ。勉強しろ。シフト全部下ろしとくから。」
「はぁぁあ!?勉強だる!!!まぁいいけど!!」
「ほんじゃ今日は仕事終わりなー」
「ちぇーだるー」
心配してくれるのは嬉しいけど、なんかやだな。ありがた迷惑ってやつだね。
帰りたくないけど帰らないとかー。
CDショップを出て家に向かう道のりをただ歩く。今日は少し遠回りしてから帰ろう。
なにも考えず歩く。何気に楽しい時間。
そういえば、新しいカフェ出来たんだな。
公園は今日も賑わってるな。
今日の道は新しい発見がいっぱい。そのままぼーっとしながら歩いていると、目の前にコンビニが見えた。せっかくだし、お母さんの好きなマヨおにぎりとポテトチップスでも買って帰ろうかな。
店内に入ると、ピロピロンと入店音が鳴り響く。マヨおにぎりとポテトチップスを両手にレジへと向かった。店員さんとのやり取りを終えて再び家へ向かう道を歩いた。
家の前まで来た時、ふと違和感を感じた。
鍵が、開いている。
お母さんは、出かける時も、家に居る時も、絶対鍵をかけるはずなのに。
中に入れば、見知らぬ男が、お母さんとリビングで会話を重ねている。
「あら、帰ってたの。バイトは?」
「もうすぐ受験だから勉強しろって店長から。」
「そう。あ、この人、業者の人だから。気にしないでちょうだいね。」
「うん。お母さん、鍵開いてたから閉めておいたよ。次から気をつけて。」
「あらそう。ごめんなさいね。」
そこに居た男は私の方を向いてペコりと一礼をした。けど、その顔には見覚えがあった。
覚えてないはずない。琴夏の家に居た強盗の顔と一緒だ。
「…出てって。」
「菜代…?」
頭が混乱していて状況が整理出来ない。なぜお前が私の家にいるんだ?
なぜここにいる?また、琴夏と一緒のことするためか?ならば先に、こいつを。
「見たことある。お前、この女の子を知ってるだろ?」
男の前で琴夏との記念写真を差し出した。
一瞬、男はニヤリと笑ったような気がした。
「…笑ってんじゃねぇよ!」
気づけば私の手は赤色に染まっている。気づけばこいつを恨んでいる。そりゃそうか。琴夏を奪ったのはお前だから。
「出てって。やっと解放されたからって調子こいてんじゃねーよ。もっかい捕まってくるか?お前の人生しょーもねーな。かわいそ。」
お母さんはすぐに私の言うことを信じてくれた。思った通り、あいつは琴夏を奪った犯人だった。刑務所から解放されていい気になっているつもりなのだろうか…。また、罪を犯すつもりなのだろうか。所詮人間の人生なんてしょうもないものなんだ。小説や漫画では、「あいつもきっと、家族がいるんだ」とか言っちゃって。家族いるからなに?だったら琴夏を返してよ。「あいつにも、帰るべき場所があるんだ」とかさぁ、罪を犯すやつに帰るべき場所なんかなくない?意味不なんだけどとしか言いようがない。
「菜代、ありがとうね。少し落ち着いて、アイスでも食べましょ。」
「ごめん。今はいらない、かな。」
「そう。」
お母さんはそう言って、自室へと向かっていった。私はただ、リビングに1人。
あの行動は、一体正しかったのだろうか。
そんな時、ふと琴夏のあの言葉を思い出した。
「正しいよりも、自分が良いか悪いかじゃない?正しいも大切かもしれないけど、私はダントツで自分優先かなぁ!」
自分が良いか悪いのか。
今更そんなの。私には興味無いや。
勉強、しなきゃ。