夏祭り。私にとっては地獄のようなイベント。人混みが多く、屋台から香る酒臭い匂い。嫌いでたまらない。花火だって、鼓膜破れそうな勢いで爆発するもんだし。
誰があんなの好きになるもんか。
ずっと、そう思ってた。
けど、君のせいで、もっと嫌いになった。



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「ねー見た?あのニュース!」
「見た見た!!あの『Flower』の深田夜夢君がドラマ出演だってね!!」
「あれヤバくない!?ニュース見た瞬間テレビで予約したよ!!」
「えー!!私もー!!」

深田夜夢(ふかだ よむ)。
どこか聞いたことのある名前。
けど、分からない。
聞いたことある気がするけど、分からない。
『Flower』
深田夜夢が所属してるであろうアイドルグループ。
韓国アイドルやジャニーズといった感じのグループじゃなく、どちらかと言えば、
「歌い手」と言う方が自然のグループ。
一応全員顔出しはしてるけど、ジャニーズのような活動は特にしていない。
のにも関わらず、いつも人気No.1アイドルを維持している。
基本的な情報はなんとなく把握している。
CDショップの店員バイトをやっているからだろうか。これぞいわゆる職業病、というものだろうか。
私が通っている高校は、公立でありながらも、結構校則は緩め。
バイトOKでスマホも授業中以外ならOK。
化粧や髪染めも、生徒指導と学年主任から許可取ればいいと見なされている。
なんだかんだ言って、自由奔放な学校だ。
3年生に進級した私、新田菜代(あらた なよ)は、
大学受験目の前ということで、なんだかんだ毎日忙しかった。

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「てんちょー、シフト入ってねーけど手伝いに来た。」
「おぉ。それは助かるねぇ。って、特に何もすることはないけどね。シフト入ってないなら大人しく家で勉強しておけば良かったのに。」
「えぇー?別に?暇だもん。勉強だるいし。それに、今の私の偏差値63くらいだし、そこら辺の大学には受かるでしょ。」
「菜代。大学受験を舐めてもらっちゃァ困るなぁ。」
バイト先の店長の八田さん。
結構歳いったおっちゃんのくせして、めちゃくちゃ仕事出来るタイプの人間。
なんか腹立つ。けど、結構尊敬してる先輩でもある。
今日はたまたまシフト入ってなかったけど、家に帰る気力もないため、せっかくだし手伝いに来た。
「んー、どうしても手伝いがしたいっちゅーなら、レジの方を頼む。俺は裏で休憩してくっから。」
「はぁ???手伝いってそういう事じゃねぇし!まぁいいわ、レジね。了解。」
高校入ってすぐここにバイトに来たため、店長とは結構な仲である。
嫌々と思いながらもレジを担当する私。
「次のお客様こちらどうぞー。」
「あの、これ、お願いします。」
全身黒ずくめの男。声も聞いた事あるし、見たことある。誰だこいつ?
「あと、Flowerの一番くじも、お願いしたいんですけど…」
「Flowerの一番くじですねー。何回引かれますか?」
「えっと…10回で…」
「10回ですと、6000円になりますねー。お先にCDの方の会計が、2万5000円になりますねー。えー、一番くじの会計含め、3万1000円になりまーす。」
「カードで…」
喋り方めちゃくちゃ陰キャじゃん。
もっと自信持てってのー。
「ありがとうございまーす。では一番くじの方お願いしまーす。」
くじの箱を用意すると、彼はボソボソと何かを呟きながら当たりのくじを探すかのようなしぐさをする。
「Flower好きなんですか?」
くじを引いてる最中だが、少し気になって彼に話しかけてみる。
「えっとー…好き…というか…」
「あー、推しに依存状態的な感じですか?」
「いやっ、違くて…本…人…です…」
「おー、本人なんですか。そりゃ、自分のグッズ当てたいところですねー。」
軽い口取りで彼と会話を進める。
「お、驚かないんですか?本人…なのに?」
「ごめん。Flowerあんまり興味なくて。ていうか、元々歌に興味ないからさ。アイドルとか、そういうのも興味無いんよね。学校ではめっちゃ流行ってるけどねー。」
「そうですか…あ、俺、深田夜夢と言います。グループで基本センターとして活動してます。」
「あー、聞いた事あります。ドラマ出演とか決まったんですよね?クラスの女子がその話題で騒いでたので、つい耳に入ってしまって。」
「そうなんですか。ありがとうございます。」
私はつい楽しくなり、彼との会話を続けた。
「俺、よくここのCDショップ来るんすよね。
なんだかんだ雰囲気いいし、品揃えも完璧って感じだし。」
「ありがとうございます。」
「あ、そうだ、一番くじ。夢中になって引くの忘れてました…」
「いえいえ、大丈夫です。私の方こそなんか話長続きさせてすみません。」
彼は再び当たりを探すような仕草を始める。
当たりと呼ばれるA賞は、メンバー全員のサイン入りのカラー色紙とぬいぐるみ。
ファンからしたら絶対狙いたい賞でもあるだろう。そういえば、自分一番くじやったことないな。今度やってみようかな。
ぼーっとしながらそんなこと思ってる時には、彼は既に手元に10個くじを集めていた。
「あ、引けましたかね。それでは、中身の確認をお願いします。」
彼はひとつずつくじをめくる。
E賞、D賞、F賞、E賞、B賞。
残りの5個もめくっていく。
C賞、A賞、D賞、B賞、F賞。
「おめでとうございます、なのか?」
「わかんないですよね笑。とりあえず、A賞は確保出来たんで良かったです。」
「と、とりあえず、裏から景品持ってくるんで、待っていてください。」
景品は、往復9回程でやっとレジに持ってくることが出来た。
F賞のタオルハンカチが2個。
E賞のダイカットステッカーが2個。
D賞のキーホルダー各メンバーランダムが2個。
C賞の手のひらサイズのぬいぐるみが1個。
B賞の寝そべりぬいぐるみが2個。
最後の当たりと呼ばれるA賞は、各メンバーのサイン入りカラー色紙と寝そべりぬいぐるみ。
レジまで持ってくるのに約15分以上はかかっただろう。
「レジも大変ですね。」
「案外そうなんですよね。接客だけだし、楽かなと思って舐めていた私が馬鹿みたいです。」
「そういえば、高校生の方、ですか?」
「はい。高校3年生、大学受験目の前の学生です。」
「一緒です!でも、アイドル活動を優先するか、大学受験を優先するか、迷ってて…」
確かに、アイドルだと、ライブとかもあるし、色々大変だろうし、大学受験が入ってくると、もう頭パンクする勢いで忙しくなるもんな。
こういう時、私だったらどーするかな。
迷わず大学受験かな。その方が未来あるしって感じだし。
「その、貴方に、アドバイス…をしてもらいたくて…」
「え、私アイドルとかやったことないただの一般高校生ですが大丈夫ですか??」
「いいんです!それに、貴方…いや、なんでもないです!とにかく、アドバイスをしてもらいたくて!」
彼は目を輝かせてこちらを見つめてくる。
アイドルには興味無いもんだから、こんなんで鼻血だして死んだりはしないけど。
「あー、わかりました。あと、貴方って呼ばれるのなんか嫌だな。私、新田菜代って言います。」
「菜代さん、ですね。今日からよろしくお願いします、!」
「あ、え、はい。よろしくお願いします。」