いつもと同じ毎日が過ぎていく。
美織と杏の楽しそうな声が耳から離れなくて、私を追い込む。
ふたりだけで楽しそうにしている様子を見ているだけで、食事が喉を通らない。
ひとりぼっちの着替え、理科室への教室移動。
放課後は、増村先生に呼ばれて文芸部に行った。
増村先生は私が入部したことをすごく喜んでくれて、部員三名に向かって文学について熱弁していた。だけど気乗りせず、なにひとつ耳に入らない。
五時頃、増村先生に解放されるなり、光の病院に急ぐ。
ついた頃には、もう六時半になっていた。
相変わらず光は反抗的で、ろくに話すら聞いてくれなかった。
布団をかぶり、なにを言っても「うん」とか「ふうん」とか答えるだけ。しまいには、なにも返事をしてくれなくなった。
お母さんとの約束通り、大きめのタオルとか、使ってないティッシュとか、退院までにもう使わなさそうなものをひとまとめにして、私は病院を出た。
学校のカバンだけでなく、光の入院セットを入れた大きめのボストンバッグを持っているから、かなり重い。
ふらふらになりながら病院前のロータリー脇の道を歩いて、敷地外に出る。
外は、すっかり暗くなっていた。
光の病室でなんだかんだ用事をしたから、今はもう、八時近いのだろう。
病院を出るのがこんなに夜遅くなったのは、久しぶりだ。
群青色の夜空には雲が立ち込め、星ひとつ見えない。片道二車線の車道は、煌々とライトを灯した車が行き交っている。見慣れない夜の景色を見ていると、まるで、知らない街を歩んでいるみたいで心がざわついた。
「おっも……」
ボストンバッグを肩にかけなおしたとき、反動で足元がふらついた。隣を横切った知らないおじさんが、怪訝そうに私を睨んでくる。ふらついた際に、肩と肩が少し触れ合ったからだろう。
「こんな時間まで、高校生が遊んでるんじゃねえよ」
苦々しく吐き出されたおじさんの悪意ある呟きが、私の心に傷を作る。
私は、遊んでいたわけじゃない。
学校でつらい一日に耐え、弟の病院に行っただけだ。
それなのに、どうして、そんな嫌味を言われないといけないのだろう。
おじさんは、私のことなんてなにも知らないのに。
みじめな気持ちになって、どうしようもないほどに泣きたくなった。
「……っ」
唇元が、震える。足に力が入らない。
だけど、ここで泣いてはダメだと思った。路上で泣いている女子高生なんて、普通じゃない。私は、普通でありたい。当たり前からはみ出したくない。
私よりもっとつらい境遇の人は、世の中にいくらでもいる。
悲劇のヒロインぶっている場合じゃない。
もっと頑張れば。頑張ればいいだけなんだ。
だけどどんなに自分に言い聞かせても、足からはみるみる力が抜けていく。
そのうち立っていられなくなり、私は足もとから崩れ落ちるように、その場にうずくまった。
「ハア、ハア……」
何コレ、息が苦しい。
いつものように平生を装うと努力しても、うまくいかない。
まるで喉が詰まったみたいに呼吸がうまくいかなくて、瞳には生理的な涙が次々溢れ出す。
「ハッ……ハア……」
頑張らなきゃ………。
美織と杏の楽しそうな声が耳から離れなくて、私を追い込む。
ふたりだけで楽しそうにしている様子を見ているだけで、食事が喉を通らない。
ひとりぼっちの着替え、理科室への教室移動。
放課後は、増村先生に呼ばれて文芸部に行った。
増村先生は私が入部したことをすごく喜んでくれて、部員三名に向かって文学について熱弁していた。だけど気乗りせず、なにひとつ耳に入らない。
五時頃、増村先生に解放されるなり、光の病院に急ぐ。
ついた頃には、もう六時半になっていた。
相変わらず光は反抗的で、ろくに話すら聞いてくれなかった。
布団をかぶり、なにを言っても「うん」とか「ふうん」とか答えるだけ。しまいには、なにも返事をしてくれなくなった。
お母さんとの約束通り、大きめのタオルとか、使ってないティッシュとか、退院までにもう使わなさそうなものをひとまとめにして、私は病院を出た。
学校のカバンだけでなく、光の入院セットを入れた大きめのボストンバッグを持っているから、かなり重い。
ふらふらになりながら病院前のロータリー脇の道を歩いて、敷地外に出る。
外は、すっかり暗くなっていた。
光の病室でなんだかんだ用事をしたから、今はもう、八時近いのだろう。
病院を出るのがこんなに夜遅くなったのは、久しぶりだ。
群青色の夜空には雲が立ち込め、星ひとつ見えない。片道二車線の車道は、煌々とライトを灯した車が行き交っている。見慣れない夜の景色を見ていると、まるで、知らない街を歩んでいるみたいで心がざわついた。
「おっも……」
ボストンバッグを肩にかけなおしたとき、反動で足元がふらついた。隣を横切った知らないおじさんが、怪訝そうに私を睨んでくる。ふらついた際に、肩と肩が少し触れ合ったからだろう。
「こんな時間まで、高校生が遊んでるんじゃねえよ」
苦々しく吐き出されたおじさんの悪意ある呟きが、私の心に傷を作る。
私は、遊んでいたわけじゃない。
学校でつらい一日に耐え、弟の病院に行っただけだ。
それなのに、どうして、そんな嫌味を言われないといけないのだろう。
おじさんは、私のことなんてなにも知らないのに。
みじめな気持ちになって、どうしようもないほどに泣きたくなった。
「……っ」
唇元が、震える。足に力が入らない。
だけど、ここで泣いてはダメだと思った。路上で泣いている女子高生なんて、普通じゃない。私は、普通でありたい。当たり前からはみ出したくない。
私よりもっとつらい境遇の人は、世の中にいくらでもいる。
悲劇のヒロインぶっている場合じゃない。
もっと頑張れば。頑張ればいいだけなんだ。
だけどどんなに自分に言い聞かせても、足からはみるみる力が抜けていく。
そのうち立っていられなくなり、私は足もとから崩れ落ちるように、その場にうずくまった。
「ハア、ハア……」
何コレ、息が苦しい。
いつものように平生を装うと努力しても、うまくいかない。
まるで喉が詰まったみたいに呼吸がうまくいかなくて、瞳には生理的な涙が次々溢れ出す。
「ハッ……ハア……」
頑張らなきゃ………。