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「黄色と赤。どちらの私をご所望でしょうか?」
朝早くから迫られる二択に僕は困惑した。
「えっと、意味がわからない」
「だから、浴衣だよ! 二種類ご用意がありますが、どちらが良いですかって聞いてるんだよ」
「あー、なるほど浴衣か……」
八月三十日。この世界に居られるのも後二日となった、僕のきっと最後のイベント。ずっと覚悟はしているものの、あまり考えないようにしていた。考えたくなくて、頭の片隅に強引に押し寄せている。
「赤、かな。きっと、よく似合う」
「いいセンスだね。それじゃ、私は今から春華のところ行って着付けしてくるから、お昼ぐらいに集合ね!」
祭りに行くというのに早すぎる集合にどこか既視感を覚える。
「まぁ、いいけど」
「そうだ、せっかくだから幽霊くんも浴衣を着なよ!」
「いやだよ。恥ずかしいじゃん」
「だーめ。じゃ、私も着ません」
「うっ……わかったよ。でも、今から浴衣? 着物? って言われてもなぁ」
そのようなものを人生で着た記憶がないため、どこに行けば調達できるのか全くわからない。
「じゃ、大人に頼ってきなよ」
急に真面目な顔をする彼女。
「大人? ……あぁ」
彼女の言いたいことが分かった。
ちゃんと、挨拶をしてこい。そう言いたげな彼女なりの気遣いを感じた。