ねえ？こんな噂知ってる？
運命の赤い糸で結ばれなかった生徒が、自身の赤い糸で首を吊った話。
なにそれ？運命の赤い糸なら結ばれるもんじゃないの？
それがね、昔、運命の赤い糸だと信じていたある女の子がいたの。彼女には好きな人がいてね、思い切って好きな人に告白したの。でも、その人には別に好きな人がいたの。だから、ごめんなさいって振られちゃった。
そうしたらその彼女が怒り狂っちゃって。運命の赤い糸なんて、存在してないじゃないって狂ったように泣き叫んじゃったの。
ふーん。そんな大恋愛だったんだ。
それで次の日、その人は日直だったから朝早く教室に投稿したらね、誰よりも先に彼女が教室にいたんだって。
＿＿無数の赤い糸を首に巻いて、教室の天井からぶら下がってたの。
えっ……つまり、自殺したってこと？
そういうこと。そのあと、その子は自殺した彼女を見て精神がおかしくなって転校しちゃったんだって。
その日以降から、こんな噂があるの。
『運命の赤い糸を信じる者は、断ち切りアカコに殺される』ってね。あ、アカコってのは、赤い糸で死んだからそう呼ばれてるみたい。
うげえ、なにそれ……。ってか殺されるってなによ？何で殺されるわけ？
そりゃあもう決まってるじゃない。
＿＿アカコが切った自分の運命の赤い糸で、首を巻かれて自殺させられちゃうの。
※※※※※※※※※
『……好きな人？いないけど』
梅原智絵里は、怪訝そうな顔をしながら淡々と返事をした。目の前にいるのは、ろくに会話も交わしたことの無い他のクラスの男子生徒。背は……おネエさんよりも低いが、そこそこ高いのだろう。顔は……興味が無いので若干ぼんやりしている。頬を少し赤らめながら、言葉に詰まる相手に智絵里は首を傾げた。
『私に好きな人がいたら、困るの？』
何気ない、純粋な質問だった。放課後、裏庭に来てください、なんて下駄箱の中に入っていたメッセージカードを元に来てみたが、ただ、好きな人がいますか？と聞かれただけでその後の話がなかなか進まない。覗き込むように、相手をじっと見つめると、生唾を飲み込んだのか、改まって姿勢を正した。
『梅原智絵里、さん！先日、街で見かけた時に、貴方に一目惚れしました！よ、良かったら付き合ってくれませんか！』
お辞儀の角度は45度。しっかり頭を下げて左手を差し出してきた。なるほど、そう来たか、と面を食らった様子でもなく、むしろ智絵里はどこか面倒くさそうに肩を下ろした。そして、ちらりと横目に草陰の方を見ると、バレてないと思っているのか、彼の友人らしき男子生徒が数名居た。
あの、隠れてないんですけど……。
そう言いたくなる言葉をグッと飲み込み、智絵里は僅かな時間の中でこの場での最適化を探り出す。ミステリー研究会の部長である彼女は頭の回転が早い。ここで円滑に、事を終わらせることは出来ないのだろうかと思考をめぐらせる。正直なところ、自分は恋愛というものに全くと言っていいほどに興味が無い。どのくらい興味が無いかと言うと、彼女の叔父……いや、叔母？である、梅神柊というおネエが口を酸っぱくしてこう指定する程だ。
『いい？姫ちゃんが付き合う男の人は、最低限アタシのことを倒せる人にしなさい！』
何を基準にそれを設けたのか知らないが、目標が無いよりかはいいかと思い、胸の内にそれを秘めて学校生活を過している。まさか、今ここでそれを使う羽目になるとは思わなかったが、如何せん問題がある。
＿＿会わなくても分かる。この男では、自分のおネエさんを倒すことが出来ない、と。
それならば答えは一つであろう。しかし、問題は伝え方だ。先日、友人からこんな話を聞いた。少女漫画によると、『恋愛に興味が無い』『誰とも付き合う気がない』と返事をしてしまうと、むしろ相手が燃え上がってしまうのだと。私が今欲しいのは、彼に私のことを完全に諦めてもらうことだ。
何かこう、うまい具合に彼に諦めてもらう方法は無いのだろうか……。
この間僅か0.5秒の出来事である。うーん、と悩む智絵里の目の前に転機が訪れた。自分の背後からこちらに向かって歩いてくる足音が聞こえた。ザッザッ、と砂を蹴るような聞き覚えのある足音に、彼女は振り返る……が。
彼女が振り返るよりも先に、その足音の主は彼女の肩をに手を置いて口を開いた。
『……すんませーん、先輩。梅原先輩は俺が先に大恋愛を予約してるもんで、諦めてはくれませんかね？』
そう整った顔立ちから浮かぶその笑顔は、圧倒的強者のオーラと牽制であった。高橋早苗、通称ナエくんは、妙に爽やかでキラキラした声色で相手の男子生徒を蹂躙した。彼の声色にハッと顔を上げた男子生徒は、見る見るうちにその表情が青ざめていく。冷や汗を垂らしながら、私に差し出していた右手を自分の後頭部へと持っていく。
『へ、あ、へへ……。た、高橋さんちの坊ちゃん、じゃあないですか……へへ……』
先程までの威勢は何処へやら。蛇に睨まれた蛙のように怖気付いている。まあ、その気持ちは分からなくもない。
『あれ？先輩、俺の事ご存知なんですかァ？嬉しいなァ！そんなに有名なんですね、俺！』
わざとらしくにこやかに微笑む彼に対し、血の気が無くなった上に震え出す男子生徒。ここまで来るともはや可哀想にまでなってくる。そんな弱っている相手の精神を雑草を引き抜くが如く、畳み掛ける。
『……じゃあ、俺に免じて、もう二度と梅原先輩を気安く口説かないでくださいね？』
その声は表情とは裏腹に、腹の底から響くような低い声だった。蛇じゃない。コイツは虎が熊だ。いつもの好青年のフリはどこへ行ったのやら……。しかし、相手にとっては効果は抜群なのか、もちろんです！もちろんです！と深々と頭を下げると、草陰にいた男子生徒たちを連れてこの場を後にした。なんというか、ヤクザの息子パワーというのは恐ろしいものである。
『ちえちゃん先輩！これで悪い虫は追い払いましたよ！褒めてください！』
鬼気迫る声色から一変、どこからそんな甘えた子犬のような声が出てくるのか、優秀な自身の頭でもその解答は導き出されることは無かった。むしろ、考えれば考えるほど鳥肌が立ってしまった。
『いやあの、追い払ってくれたのは嬉しいんだけど……。あそこまで言う必要あった？』
別に私は君のものじゃないぞ。そう言えば、ナエくんは不服そうに口を尖らせたあと、これ見よがしに私の髪を掴み、そっと口付けを落とした。
『……俺はいつでも先輩の隣に立ちたいと思っていますよ？』
普通なら引っぱたかれても仕方ない状況なのだが、その妙に真剣な眼差しに不覚にもドキリと心臓が跳ねてしまった。ダメだダメだ。そういうことじゃない。
『いつも思うけど、これで私と君が付き合ってるなんて噂が流れたらどうするんの？』
『えっ？！そんなの出来たらもう完璧にマーキング出来たようなもんじゃないですか！最高ですね！』
『君にはメリットしかないんだね……』
『だって、俺と先輩は運命の赤い糸で繋がってるじゃないですか！この糸を断ち切ろうとする奴がいたら、その時はコンクリートで固めて夜の湾に沈めます！』
『頼むから穏便にして……。それにしても、運命の赤い糸なんて言葉久しぶりに聞いたな』
『え？なんでですか？普通言いません？』
『だって君、知らないのか？この学校で運命の赤い糸って言ったら……』
【＿＿アカコさんに切られるんだぞ】
運命の赤い糸で結ばれなかった生徒が、自身の赤い糸で首を吊った話。
なにそれ？運命の赤い糸なら結ばれるもんじゃないの？
それがね、昔、運命の赤い糸だと信じていたある女の子がいたの。彼女には好きな人がいてね、思い切って好きな人に告白したの。でも、その人には別に好きな人がいたの。だから、ごめんなさいって振られちゃった。
そうしたらその彼女が怒り狂っちゃって。運命の赤い糸なんて、存在してないじゃないって狂ったように泣き叫んじゃったの。
ふーん。そんな大恋愛だったんだ。
それで次の日、その人は日直だったから朝早く教室に投稿したらね、誰よりも先に彼女が教室にいたんだって。
＿＿無数の赤い糸を首に巻いて、教室の天井からぶら下がってたの。
えっ……つまり、自殺したってこと？
そういうこと。そのあと、その子は自殺した彼女を見て精神がおかしくなって転校しちゃったんだって。
その日以降から、こんな噂があるの。
『運命の赤い糸を信じる者は、断ち切りアカコに殺される』ってね。あ、アカコってのは、赤い糸で死んだからそう呼ばれてるみたい。
うげえ、なにそれ……。ってか殺されるってなによ？何で殺されるわけ？
そりゃあもう決まってるじゃない。
＿＿アカコが切った自分の運命の赤い糸で、首を巻かれて自殺させられちゃうの。
※※※※※※※※※
『……好きな人？いないけど』
梅原智絵里は、怪訝そうな顔をしながら淡々と返事をした。目の前にいるのは、ろくに会話も交わしたことの無い他のクラスの男子生徒。背は……おネエさんよりも低いが、そこそこ高いのだろう。顔は……興味が無いので若干ぼんやりしている。頬を少し赤らめながら、言葉に詰まる相手に智絵里は首を傾げた。
『私に好きな人がいたら、困るの？』
何気ない、純粋な質問だった。放課後、裏庭に来てください、なんて下駄箱の中に入っていたメッセージカードを元に来てみたが、ただ、好きな人がいますか？と聞かれただけでその後の話がなかなか進まない。覗き込むように、相手をじっと見つめると、生唾を飲み込んだのか、改まって姿勢を正した。
『梅原智絵里、さん！先日、街で見かけた時に、貴方に一目惚れしました！よ、良かったら付き合ってくれませんか！』
お辞儀の角度は45度。しっかり頭を下げて左手を差し出してきた。なるほど、そう来たか、と面を食らった様子でもなく、むしろ智絵里はどこか面倒くさそうに肩を下ろした。そして、ちらりと横目に草陰の方を見ると、バレてないと思っているのか、彼の友人らしき男子生徒が数名居た。
あの、隠れてないんですけど……。
そう言いたくなる言葉をグッと飲み込み、智絵里は僅かな時間の中でこの場での最適化を探り出す。ミステリー研究会の部長である彼女は頭の回転が早い。ここで円滑に、事を終わらせることは出来ないのだろうかと思考をめぐらせる。正直なところ、自分は恋愛というものに全くと言っていいほどに興味が無い。どのくらい興味が無いかと言うと、彼女の叔父……いや、叔母？である、梅神柊というおネエが口を酸っぱくしてこう指定する程だ。
『いい？姫ちゃんが付き合う男の人は、最低限アタシのことを倒せる人にしなさい！』
何を基準にそれを設けたのか知らないが、目標が無いよりかはいいかと思い、胸の内にそれを秘めて学校生活を過している。まさか、今ここでそれを使う羽目になるとは思わなかったが、如何せん問題がある。
＿＿会わなくても分かる。この男では、自分のおネエさんを倒すことが出来ない、と。
それならば答えは一つであろう。しかし、問題は伝え方だ。先日、友人からこんな話を聞いた。少女漫画によると、『恋愛に興味が無い』『誰とも付き合う気がない』と返事をしてしまうと、むしろ相手が燃え上がってしまうのだと。私が今欲しいのは、彼に私のことを完全に諦めてもらうことだ。
何かこう、うまい具合に彼に諦めてもらう方法は無いのだろうか……。
この間僅か0.5秒の出来事である。うーん、と悩む智絵里の目の前に転機が訪れた。自分の背後からこちらに向かって歩いてくる足音が聞こえた。ザッザッ、と砂を蹴るような聞き覚えのある足音に、彼女は振り返る……が。
彼女が振り返るよりも先に、その足音の主は彼女の肩をに手を置いて口を開いた。
『……すんませーん、先輩。梅原先輩は俺が先に大恋愛を予約してるもんで、諦めてはくれませんかね？』
そう整った顔立ちから浮かぶその笑顔は、圧倒的強者のオーラと牽制であった。高橋早苗、通称ナエくんは、妙に爽やかでキラキラした声色で相手の男子生徒を蹂躙した。彼の声色にハッと顔を上げた男子生徒は、見る見るうちにその表情が青ざめていく。冷や汗を垂らしながら、私に差し出していた右手を自分の後頭部へと持っていく。
『へ、あ、へへ……。た、高橋さんちの坊ちゃん、じゃあないですか……へへ……』
先程までの威勢は何処へやら。蛇に睨まれた蛙のように怖気付いている。まあ、その気持ちは分からなくもない。
『あれ？先輩、俺の事ご存知なんですかァ？嬉しいなァ！そんなに有名なんですね、俺！』
わざとらしくにこやかに微笑む彼に対し、血の気が無くなった上に震え出す男子生徒。ここまで来るともはや可哀想にまでなってくる。そんな弱っている相手の精神を雑草を引き抜くが如く、畳み掛ける。
『……じゃあ、俺に免じて、もう二度と梅原先輩を気安く口説かないでくださいね？』
その声は表情とは裏腹に、腹の底から響くような低い声だった。蛇じゃない。コイツは虎が熊だ。いつもの好青年のフリはどこへ行ったのやら……。しかし、相手にとっては効果は抜群なのか、もちろんです！もちろんです！と深々と頭を下げると、草陰にいた男子生徒たちを連れてこの場を後にした。なんというか、ヤクザの息子パワーというのは恐ろしいものである。
『ちえちゃん先輩！これで悪い虫は追い払いましたよ！褒めてください！』
鬼気迫る声色から一変、どこからそんな甘えた子犬のような声が出てくるのか、優秀な自身の頭でもその解答は導き出されることは無かった。むしろ、考えれば考えるほど鳥肌が立ってしまった。
『いやあの、追い払ってくれたのは嬉しいんだけど……。あそこまで言う必要あった？』
別に私は君のものじゃないぞ。そう言えば、ナエくんは不服そうに口を尖らせたあと、これ見よがしに私の髪を掴み、そっと口付けを落とした。
『……俺はいつでも先輩の隣に立ちたいと思っていますよ？』
普通なら引っぱたかれても仕方ない状況なのだが、その妙に真剣な眼差しに不覚にもドキリと心臓が跳ねてしまった。ダメだダメだ。そういうことじゃない。
『いつも思うけど、これで私と君が付き合ってるなんて噂が流れたらどうするんの？』
『えっ？！そんなの出来たらもう完璧にマーキング出来たようなもんじゃないですか！最高ですね！』
『君にはメリットしかないんだね……』
『だって、俺と先輩は運命の赤い糸で繋がってるじゃないですか！この糸を断ち切ろうとする奴がいたら、その時はコンクリートで固めて夜の湾に沈めます！』
『頼むから穏便にして……。それにしても、運命の赤い糸なんて言葉久しぶりに聞いたな』
『え？なんでですか？普通言いません？』
『だって君、知らないのか？この学校で運命の赤い糸って言ったら……』
【＿＿アカコさんに切られるんだぞ】
