王都ミノラルは冒険者と商業の街である。王宮を中心にして東側が冒険者の街。西側が商業の街として発展している。学校や飲食店などもどちらかにあるかで毛色が異なっており、二つの発展都市をまとめたようなものだった。

 そして、そのミノラルのとある酒場にて、とあるSランク冒険者パーティである『黒龍の牙』では穏やかではない話し合いがされていた。



「アイク、お前をパーティから追放する」

「え? な、なんで急にそんなことを言いだすんだ?」

 俺がクエストの素材の換金や報告を行い、ギース達がいる酒場へ向かうと席に着くなりギースにそんなことを言われた。

「急に? ずっと思っていたさ。まぁ、実際にパーティ加入したときからこのパーティにふさわしくないとは思っていたよ」

 ギースは嘲笑と共に、俺に見下す視線を投げつけてきた。魔法使いのキースや回復魔導士のモモ、タンク役のエルドもギースと同じ意見なのか、俺を見る目には冷たさがあった。

 俺たちはパーティがEランクの頃から共に頑張ってきた仲間だと思っていた。当たりは強かったが、それでも俺の力を必要としてくれていると思っていた。しかし、そう思っていたのは俺だけだったみたいだ。

「理由を聞いてもいいか?」

「理由? そんなのお前がパーティにいる必要がないからだろ。『道化師見習い』とか言うジョブだったから、ふざけてパーティに入れてやったんだろ。でも、お前アイテムボックス持ちであること以外ただの一般人じゃないか」

 この世界では、十歳を迎えた子供に洗礼の儀式というものが行われる。そこで、ジョブというものを神から与えられるのだ。

 大概の人間がそのジョブ通りに生きることになる。ギースのような『勇者』やキースのような『魔法使い』、生産職である『錬金術師』などもあったりする。

そんな誰もが知る職を与えられるはずの洗礼の儀式で、俺は『道化師見習い』というジョブを与えられた。

 過去にそんなジョブを持った人間はいなかったらしく、俺が住んでいた村では少しだけ話題になったりもした。

 ギース達と初めて会った時も俺のジョブに驚き、パーティに誘ってもらったのだ。

 しかし、今はそんなギース達にそのジョブを馬鹿にされる始末。

 ギースの発言を聞いてクスクスと笑うキースとモモ。そして、エルドもギースの発言を当たり前だとでも言うかのように聞き流していた。

 どうやら、彼らは俺のことをそんなふうに思っていたらしい。

 俺が戦闘中に何をしていたのか、本気で知らないみたいだった。

「俺たちもS級になったことだし、これ以上おふざけ枠のお前を置いておくわけにはいかないんだよ」

「おふざけ……わかった。そこまで言うなら、俺も出ていってやる」

「そうしてくれ。おっと、貸してやっていた装備品とアイテムは全部おいていけ。あれは、このパーティのものだ」

「言われなくても置いて行ってやるよ」

 俺は身に着けている装備品を机の上において、酒屋を後にした。

 後ろの方でまだ俺を馬鹿にするような言葉が聞こえてきたが、俺はその声には振り返ることはなかった。

 突然言われたパーティを抜けろという言葉。悔しさがないと言えば嘘になる。

 それはギース達以上に自分に向けられている感情だった。

 なんで俺はこんなパーティのために汗水たらして頑張っていたのだろうと。誰もが気づかなくても、パーティメンバーだけは俺の力を必要としてくれているという期待を抱いていた自分に対して、怒りが湧いてきた。

 俺はその苛立ちを感じながら宿に戻って自分の荷物をまとめた。

パーティメンバーがここに戻ってくる前に、別の宿に移動した方がいい。あんな話の後にまた顔を合わせたくもないしな。

 俺は宿に出しっぱなしにしていた私物をアイテムボックスに放り投げて、宿を後にした。

 さて、どうしたものか。

 とりあえず、なるべくギース達の宿から遠い場所に行こう。

 そう決めて、俺は王都の端の方に向かって歩き出した。


【独立したことで条件を達成しました。ジョブが『道化師見習い』から『道化師』に進化しました。】

【新たなスキルを獲得しました】
【ユニークスキル:道化師 全属性魔法 助手】
【アルティメットスキル:アイテムボックス(無限・時間停止) 投てきS 近接格闘S 剣技S 気配感知S 生産S 鑑定S 錬金S】