この時はまだみんな気づいてなかったんだよ。

ある大切なことに…

「無事だったね〜」

「死ぬかと思ったぜ…」

「自分もっす…」

「もう!情けないわね!」

「んな事言ったってなー…突き落とされたらそりゃな?」

「そうっすよ!せめて飛び降りさせてくださいっす!」

「あれ、っていうかフウとライムは?」

「「「っ!?」」」

「そういえばいねーな…」

「どこ行っちゃったのかしら?」

「リアルを追求しすぎたサバイバルだから今回のイベントってチャット機能無いからね〜」

「探すしかなさそうっすね…」

………

「ライムー…大丈夫ー?」

「フウ。だいじょうぶー」

「ここどこだろうね?」

一番最初に飛び降りた私達はどうやら別の場所に飛ばされちゃったみたい。

この辺り黒い塊無いし、結構離れちゃったのかな?

「とりあえず移動しよっか!」

「はーい!」

………

「くそっ!なんでこんなに黒い塊が出てきやがるんだよっ!」

「しょっ、しょうがないっすよっ!中心部に向かってるっすからねっ!」

「二人とも、戦いながらっ愚痴言ってんじゃ無いわよっ!」

全員トップギルドのマスターやサブマスターでゲーマーなだけあってなんだかんだで倒しひと段落するのだが…

「いやぁ〜にしても、フウとライムが居ないとなかなか厳しいねー…」

「ええ、本当にね。フウのサポートとライムの攻撃と回復の存在感は凄かったのもね…」

「あぁ、当たり前は無くしてから気付くってこういう事なんだな」

「ちょっ、ちょっと皆さん!?その流れお二人がリタイアしちゃたみたいな流れになってるっすけど、逸れちゃっただけっすよね!?」

「ファイス、あんまり騒がないの」

「そうだぞ、あんまり冷静さを欠くと良く無いぞ?」

「ファイスは考えすぎなんだよ〜」

「いや!自分何も変なこと言ってないっすよね!?ね!?」

「ま、まあ。冗談はさておき、フウ達がリタイアしちゃった可能性は視野に入れといた方がいいかもね〜」

「そ、そうね…」

………

「フウー!石いっぱいあるねー」

「みんなには申し訳ないけどここすごく楽しい!」

ここミスリルとダマスカス魔鉱石の宝庫だよ!

でもなんでだろ?

ミスリルは自然に存在する魔力が結晶化した鉱石だよね?

ダマスカス魔鉱石はダマスカス鉱石が強い魔力に当てられた時に生成されるんだったよね?

って事はここがそんなに自然な魔力と他に強い魔力を持った何かがいるって事だよね。

これはちょっと調べる人用がありそうだね!

「ライム〜この辺にして先に進もっかー!」

「はーい!」



「ねえフウ?この扉すっごく嫌な感じがする…」

「これは明らかに怪しいね…」

さて、私達がここに来た時にこの道が一方通行でライムと二人で決めて左に行く事になったんだけど…

まさかあたり側引くなんて思ってなかったからなー…

二人で勝てる保証ないけど進まない事には意味がないんだもんね!

「どうするのー?」

「二人でどうにかできるかわからないけど行こうか!」

「ライム頑張るね!」

「うん!じゃあいつも通りって事で!行こうか!」

「しゅっぱーつ!」

そう言って扉を開け、部屋に入るフウ達を待ち構えていたのはあの黒い塊が鎧のように光沢を帯び、黒光りする一つの巨大な…

………

その頃アヤカ達一行は相変わらずの黒い塊に苦戦するもとある一つの大きな広場に辿り着いていた。

「これは…流石にしんどいわね…」

「ああ、アイテムが万全じゃないだけにHPもMPもそろそろ危なくなってくる頃か?」

「そうっすね…強いて言うなら黒い塊の戦闘アルゴリズムが全く変わらないことくらいっすか…?」

「いや〜ほんとも…!?みんな戦闘態勢!今までで一番多いかもね…」

アヤカ達がいた広場は中央に下りの螺旋階段があり、そこから黒い塊が伸びていたのだが…

「あの螺旋階段の下がボス部屋で間違いなさそうね…」

「よっしゃ!ボス前最後の一踏ん張りやったるぜ!」

「このあとボスすっからね、無理しない程度に頑張るっすよ!」

こうして今までで一番多い黒い塊との戦闘を開始した一方でフウ達はアヤカ達が知る間も無くボスと戦っていた。

………

黒光りする塊は寝ていたらしく、フウ達が入ると目を覚まし大きな翼を広げて大きな咆哮を上げた。

「また龍!?今度はまた強そうな…」

ここに来て何個かわかったことがあるんだけど、まず黒い塊は恐らくこの龍の体の一部という事。

あの赤い線はこいつがここに来て散々吸収したマグマじゃないかなって。

あと後ろの二頭は門番の火竜が言ってた裏切ったっていう竜のことで間違いないと思う。

あの黒い塊に寄生されて操られてるんじゃないかな…?

「フウー?」

「か、勝てるかな…」

「三体もいるもんねー、ライムもちょっと自信ないな〜…」

「まあ、入っちゃったものはしょうがないしやるしかないよ!」

「うん!がんばる!」

そんな流れで戦う事になったのだが…

「ライム!次またブレスくるよ!」

「は、はーい!」

「次尻尾攻撃!」

「は…はーい!」

まずい、ライムがさばききれなくなってきてる…

私がサポート以外できたらいいんだけどな…

「ライム!とりあえず取り巻きの二体だけ片付けちゃお!」

「りょーかい!なのっ!」

「私も前に出るね!」

「フウと一緒に戦えるの!?やった〜」

いや、ライムさん?そんなに目を輝かせないで…?

それはそれとして、私が入ったところでこの状況、どうにかなるのかな…?

「私が出来るだけライムに攻撃いかないようにするからライムは出来るだけダメージ入らないように回復お願い!」

「はーい!それじゃあいっくよ〜!」

それからは今までゲームやってきた中で一番苦しい戦いな気がする。

ボスの攻撃を躱しながらひたすら取り巻きを倒す事に専念してたんだけど、ブレスが飛び交ったり爪に尻尾に噛みつきに、空中からの攻撃もあった。

ライムは私が攻撃食らっちゃった時には回復魔法掛けてくれたりしてようやく…

「やっと…やっとだよ…あとは本命のこいつだけだね…ここからが本番だよ!」

「ライム頑張るー!」

………

「数が減らないどころか増えてないかしら…?」

「これはちょっとやばいかもね〜?」

「ちゃんとこれ戦いに終わりあるっすかね?」

「そんなみんなで疑問ぶつけても仕方ねーだろ…やばいのには間違いないんだが…」

トップギルドのマスター、サブマスター達が四人も集まって戦っているこの戦いは黒い塊に圧倒的な数に押されて苦戦を強いられていた。

ま、まあパーティーのバランスには目を瞑るとして…

「このままじゃジリ貧よね…」

「そうだな…ボス戦用にアイテム多少温存してるからHPもMPも心もとないしな…」

「ここであのラッキーガール達がタイミング良く帰ってきてくれたりしないかね〜」

「それは確かに形成逆転できそうっすもんね!…」

そんな期待を寄せられているフウとライムは未だに戦闘を続けていた。

………

「全然HP減らせてる気がしないよ…」

「フウ〜…こいつ強いよー…」

こりゃリタイアも覚悟でやるしかないかな…

せっかくのイベントまだ時間残ってるし、焔龍皇まだ復活させてないけどここが私の正念場だね!…

「さぁ!ライム、きついけどラストスパート頑張ろっか!」

「うん!強いけどフウと一緒だから楽しいもん!」

私AGI高くないからなー…攻撃当たるんだよなー…

回避率にダイレクトに影響してくるわけじゃないらしいけど…

なんで詳しいかって?

もちろん、調べました!

ま、まあ。それはそれとして…

「ライム、攻撃受けながら攻撃してたまに回復できたりする…?」

「まっかせるのー!ちょっと難しいけどフウのために頑張るのー!」

「ありがと!私はその間にできるだけ攻撃するからね!」

それから戦いは長く続き突然今までにない大きな咆哮を上げたと思ったら敵の行動に変化があったの。

突然大きな翼を広げて滞空状態に変わったの。

これってアヤカが言ってた残りのHPが二割くらいまで減った時にボスの行動パターンが変化するって言ってたやつか!

「ライム!あいつのHPあと少しだからがん…あ、どうやって攻撃しようね…?」

「ライムの光剣は当てられるけど難しいのー…でもライム頑張る!」

その瞬間竜が纏ってた黒い塊が宙に浮かび、無数の大きな針となり雨のように降ってきた。

「わかった…ってライム!!」

「フウーー!!」

………

私…まだ生きてる、みたいだね…ライムは!?

「ライム!?大丈夫!?」

「…ん、だいじょーぶ…なのー」

ライムは流石にHP残ってるね。

って私もうほとんどHP残ってない!

これで最後だけどポーション使うしかないか…

「こく、こく、こく…ぷはぁー!」

これは付与かけてなかったら確実に死んでたね…

「ライムいけそう?」

「大丈夫なのー!」

「じゃあ対空戦始めよっか!」

「はーい!」

対空戦って言っても私また戦えない状況になっちゃったんだけどね…

それからは最初のスタイルで私が攻撃とか見極めて指示をしつつ援護する感じだったんだけど…

「フウー!MP無くなっちゃった!」

「え!?」

今このタイミングでそれ来る!?

多分あと少しってところなのに…

「ちょっと考えるから待ってね!その間攻撃避けてられる?」

「だいじょーぶー!」

さて、私に何かできることないかな…?

何か…何か…んーーー…んー…うん。

可能性があるとしたらやっぱり魔力操作しかないよね。

魔力操作で私の魔力をライムの魔力に移せないかな?

考えてる暇はないね、やるしかないよ。

「ライム!ちょっとこっちにきてー!」

「はーい!」

「ちょっ!ライム後ろ後ろ!」

竜が急降下して突進して来てるんだけど!?

「んー?あー、だいじょーぶだよ?ほらー」

ライムは急降下してくる竜を見る事もなく見事に躱し壁に激突させたのだった…なんてね。

「あ…うん」

まあ急降下して壁にぶつかる竜も竜だけどね…

「そうそう、ちょっと手出して」

「こうー?」

まずはライムの魔力の流れを見つけて…

あった!次はそこに魔力を流すイメージ…魔力を流すイメージ…

短剣に魔力流すのとやってる事は同じだよね。

流し方がちょっと難しいだけで。

点滴をイメージすればいいんだよね!

「ライム、どう?魔力回復してる?」

「うん!どんどん回復してるの!」

こんなもんかな!一応付与一回分残しておいたし大丈夫!なはず…

「じゃあ最後の付与いくよ!《スキル付与 … … …》」

これもいちいち一個一個掛けるのめんどくさいし今度どうにかしたいなー…

「ありがとなのー!ライム行ってくるの〜」

さて私も魔力無いし、ライムの魔力無くなったら今度こそ終わりだね…

でもライムの光剣の命中率もどんどん上がってる気がするしこのまま一気に倒し切っちゃいたいな。

「フウー?あと二回しか打てないのー…」

「大丈夫!ライムなら出来るよ!」

「頑張るの〜」

あ、あいつ避けたな!…

「もういいもん!えーーーーいっ!!!」

………

た、倒した…?

「フウー!やっつけて来たの〜!」

「うん!うん!ありがとう!お疲れさま〜」

流石に私達は疲れて抱き合ったままそのままその場に倒れこんだよ。

「少し休憩しよっか…」

「は〜い…」

………

その一方でひたすら黒い塊と戦い続けるアヤカ一行はフウ達がボスを倒す少し前に…

「いい加減こいつらと戦うの飽きて来たぜ…」

「そうね…経験値もそんなに美味しくないし『謎の黒い塊』ってアイテムしか落とさないものね…」

「もう軽く二百体は超えてるね〜『謎の黒い塊』ってやつも確定ドロップみたいだし、抽選は個人だからもうそろそろ千個越えてそうだしね〜」

「何かしらギミックがあるはずなんすけどね?」

と、その時まだ数百体はいたであろう黒い塊が一瞬にして一欠片も残す事なく灰になったように消えていったのだ。

「「「「なっ!?」」」」

「これ多分一定以上倒すとボスの所に戻るギミックじゃないかしら?」

「多分そんな所だろうね〜」

「合計で三百体くらいか?」

「無茶なギミックっすね…ところで一方通行でもうボス部屋の前っすけど…」

「そうね…フウとライム見つからなかったわね…」

「こりゃもうリタイアしたパターンかもね〜」

「あぁ、フウは俺たちと違ってゲーム慣れしてないんだもんな…」

「まあなんにせよとりあえず態勢整えてボスちゃっちゃと倒しちゃおっか〜!」

「そうね」

………


「準備も整ったし行きますか〜!」

「ええ!」

「そうだな!」

「はいっす!」

大きな扉を開きいざボスへと意気込む四人の目の前に飛び込んできた光景は待ち構えるボスではなく、中央に倒れる少女が二人いるだけだった。

「お、おい…これどういう状況だ…?」

「自分にも理解不能っすよ!?」

「これってまさかと驚くべきなのかしら?とりあえずリタイアしてなかった事は喜ぶべきなのだけれど…」

「いや〜…やっちゃったのかー!これはまさかとしか言いようがないよねー…」

「まさか従魔がいるとはいえソロでボス攻略するとはな…」

「そうなるとあの塊が消えたのもフウのおかげって事っすよね…」

「ええ、そうなるわね…」

「ほら、そろそろ二人の所に行くよ〜」

「あぁ。そもそも二人ともリタイアしてないとはいえ倒れてる訳だしな…」

「そっそうじゃないっすか!早く行ってあげないとっすよ!」

そのまま順にフウ達のもとに駆け寄った。

「フウー、ライムー。生きてるかー」

「生きてるよ〜。HPとMPもうほとんど無いの〜」

「ライムもMPもう無くなっちゃったのー」

「本当にギリギリ倒したって感じなのね」

「それにしてもよくやったもんだな…ほれ、ポーションだ」

「お、気が効くねー!ありがとー!こく、こく、こく、こく…はあぁー…」

「くぴくぴ、くぴくぴ、くぴくぴ…ぷはぁぁー!」

あー、このライムの可愛さをどう表現したらいいものか…

なんというかこう、ポーションの瓶を両手に抱えてちょっとずつ瓶を傾けながら飲み干して満面の笑みで「ぷはぁぁー!」って!

もう可愛すぎだよ〜!おっと、いけないいけない…ここまでにしとこう。

「それよりもほら!秘焔玉見つけたよ!」

「やっぱりボスが持ってたのね」

「早いとこ二つともはめてみよーぜ」

「これ渡しとくっすよ!」

そう言って渡された秘焔玉と持っていた秘焔玉を持っていた燭台に秘焔玉を二つはめた途端全員が光に包まれたのだった。

「きゃー!なっなにこれ!?」

「フウーー!」

「あっははーこうきたか〜」

「おいおいおいおい!どうなってんだよ〜!」

「きゃっ!やだ、なにこれ!」

「こここっこれ!大丈夫なんっすかーーー!」

………

そうして飛ばされた場所はどことなく見覚えのあるマグマに囲まれた広場だった。

「なぁここって…」

「そうっすね」

「それよりもうちは誰かさんの「きゃっ」の方が気になるかな〜」

「誰かさんってレイナー?」

「ライム、しー」

「ちょっ!アヤカにフウ!?ライムまで!」

珍しく私たちがレイナをからかってると男性陣二人が何やら小声で話しをしていたのだ。

「さっきの姉さんは確かにレアっすね!」

「あぁ、先輩のあんな声は初めて聞いたぜ」

などと本人達は小声で話しをしてたつもりだったんだろうけど、まあ筒抜けだよね。

「はぁ、もういいわ…早く行きましょ!」

「アヤカ?行くって言っても目的地ここな気がするんだけど…」

「アヤカが動揺するなんて珍しいね〜」

「…っっっっ!………」

「ま、まあそれは置いといてだ。さっきから思ってたんだがこれ地震だよな…?」

「そうっすね、これは明らかに噴火するっすね…」

「…うん…うん。わかったー。フウー?焔龍皇さんが燭台をこの広場の中心に置いて欲しいってー!」

「ん、わかった」

その瞬間また私達を光が包み込んだと思ったら目の前に巨大で尋常じゃない迫力と圧力を放つ龍が現れたの。

しかもその龍が咆哮をあげると鼓膜が破けそうなほどの轟音に身体中が震えるほどの振動。

そして巨大な揺れ、まあ地震とか噴火だと思うんだけどそれも併発してるありさま。

「儂を復活させてくれた事、感謝してもしきれないのじゃ!それより褒美をやらねばならんの!今は全員に加護と秘焔玉を一つしか渡せぬがそれで良いかの?」

「私はなんでもいいよー。それより復活おめでとー!」

「うちもなんでも〜。復活できて良かったよ〜」

「俺もなんでもいいぜ」

「私もなんでもいいわよ」

「自分も任せるっすよ!報酬欲しさにやったわけじゃ無いっすからね!」

「加護はここへのパスにもなっとるでの、また遊びにきてくれれば大歓迎するのじゃ!」

全員でタイミングよく「はい!」と返事をすると焔龍皇に街まで送ってもらったよ。

その後は特にこれといったダンジョンに出会う事もなく採掘や採集、外のモンスターなどを狩ったりしてイベントは無事リタイアするメンバーが出る事なく幕を下ろしたの。

そしてここから私、フウの第一幕が幕を下ろしまた新たなる挑戦が始まるのだった!