慌てて待ち合わせの場所に行くと、キャロがウロウロとしながら立っていた。
 その姿はかなり心配しているように見える。

 やべえな。すっげえ心配かけたんじゃ。

 慌ててキャロの所に駆け寄って行く。

「キャロー! 遅れてごめんなっ。ちょっと色々あってな」
「乱道様! 心配したんですよ。何かあったんじゃないかと……」

 キャロがいきなり俺に飛びついてきた。

「うおっ?!」
「全く知らない街ですし、迷子や誘拐されたのかと」

 いやいや大の大人が誘拐されるとか……我路とか琥珀達もいるんだぜ? 稲荷が誘拐されるってんなら分かるがな。可愛いし。

「ってか! いつまで俺に抱きついてんだキャロ! 良い加減離れろ」
「ええっ!? そんな冷たい。ボクは心配して……」
「はいはい。その気持ちは有難いんだがな? 大事な話がしずらいから離れてくれ」

 そう言って無理やり引き剥がすと、キャロは渋々「はぁい。で? お話とは?」とやっと話を聞く気になってくれた。

「実はだな…………」

 俺はこの街に起きている下民紋についての酷い仕打ち、さらにはコップの水と宿木の葉の交換についてなど、色々と知る限りの全てをキャロに話した。

「宿木の葉とコップ二杯の水を交換なんて有り得ません! あれは売れば葉一枚で銀貨一枚の価値があります」
「そうなんだよ!」
「……これは何やら深い闇を感じますね。ふむ」

 キャロは急に黙り込んでしまった。何かを考えているんだろう。


「乱道様。下民街に行きましょう!」
「ん? おっおう」

 急にすくっと立ち上がると、キャロは下民街の方に向かってスタスタと歩き出した。
 なんだかその姿は、メラメラとやる気の炎が漲っているようにも見える。

「下民街に行って何をするんだ?」
「ええ! そんなにも水に困っているんなら、ボクが持っているだけの水を分けてあげられたらと。その前に現場を見て回らないと」

 あっしまった。水問題は解決したんだよな。
 それ言うの忘れてた!

 スタスタと早歩きで歩いていくキャロに、その事を話そうと横に並び話しかける。

「キャロ! その水問題だがな?」
「ええ! ボクにまかせて下さい。こんな弱いものイジメみたいなの、ボクは一番嫌いなんですよ!」
「——いやっ。だからな? そうじゃなくて」
「安心して下さい。こう見えてボクの商会は、我が国じゃあ一番大きな商会なんです! フンスッ」
「そうなのか。それはすごいな。でも水問題は」
「心配性ですね? 乱道様は…………って!? えええええええええええ!?」

 説明する間もなく下民街についてしまい。
 キャロは新しく生まれ変わった下民街を見て、驚き腰を抜かしてしまった。

「あっあっあのっ……こっこれは!?」

「いやっ俺もこんなのは知らない……」

 俺が少しの間下民街を離れていた間にも、さらに下民街が発展していた。
 下民街を覆う高さ五メートルはある土壁がかなり広範囲に広がり、まるで新しい街が一つ出来上がった様に見える。
 下民街に入る為の入り口となる、大きな門まで造られている。

「すげえ……な」

 俺が呆然と立ち尽くし、その新たな下民街を見ていたら。

『らんどーちゃま! どうでち? すごいでち? ワレが考えたんでちよ?』
「わえ。きゃふふ♪」
『キャンキャン』

 琥珀が鼻息荒くして、俺の所に走ってきた。その横を稲荷と銀狼が楽しそうに走っている。

 なるほどな……これはお前の仕業か。琥珀。
 なかなかやるじゃねーか。

「あっあの乱道様? 僕は夢か幻を見ているのかな?」
「……その気持ち分かるよ」