「今日はもう夕方なので、この後リモットを観光なり自由時間にしますね。泊まるところはボクが用意しますので安心して下さい」

 キャロがリモットの中央に作られた広場で、俺たちを降ろしてくれた。

「では乱道様、二時間後にこの場所に集合という事でお願いします。ボクは街道の途中に現れた魔物の事を、ギルドに報告してきます」

 キャロはウサミミをぴこぴこと揺らし去っていった。

「さてと、俺も王都で買えなかった物を色々と買うとするか」

『ワレはケーキが欲しいでち! モンブランとかあれば嬉しいでちねぇ』
「わりぇー! あうっ」

 ケーキの事を想像し、ウットリしている琥珀の頭を、稲荷がガジガジと食べている。

 この二匹は何やってるんだか。

 琥珀は日本生まれって言って良いのかわからんが、まぁ俺が日本にいる時に描いたんだ、そうとしよう。

 そのせいか、俺が知っている食べ物は、全て網羅しているみたいだ。
 ただ……我路みたいに多種多様ではなくて、甘味に関してだけやたらと詳しい。

『らんどーちゃま! 絶対にケーキ屋に行くでちよ?』
「わかったって。ただ必要な物を買ってからだぞ? その後な?」
『……はいでち。ワレはケーキの為なら我慢など苦じゃないでちっ』

 とりあえずは生活必需品を買いに行くか。
 この前みたいに、森で野宿とかもこの先あるだろうし。

 そう言うのを売ってる店ってなんて言うんだろうな?
 日本だと、アウトドアの店に行けば、なんでも揃ってるんだが。
 この世界の店屋を良く分かってないから、キャロに聞いとけば良かった。

 まぁ今更だ。とりあえずブラブラとリモットを探索するか。

 どこに何があるのか分からないので、端から歩いて回る事にした。

 路地裏通りかかった時。
 何処からともなく怒鳴り声が聞こえてくる。

「ったくお前は何やっても使えねーなぁ? お前みたいな奴をただメシ食いっていうんだ。このノロマ!」
「ぎゃっ。……痛いよう。うう」
「ったく。泣いている暇がれば仕事しろ!」
 
 何だ? 鈍い音の後に子供の悲鳴。殴られたのか?

「ほら! 早く集めてこい!」
「いたっ」

 声と音のする方に耳を傾けると……いた! あそこだ!

 どうやら店の裏で子供が、店主らしき男から折檻を受けているようだ。
 
「おいっ! こんな小さな子供に暴力を振るうのはダメだろ?」

 俺が声をかけると、肥え太った店主らしき男がバカにしたように俺を見る。

「暴力だって? はははっ何を言ってるんだか? 私はね? ボランティアをしてるんだ。褒めてもらいたいね」

 店主の男が悪びれずに毒を吐く。

「小さな子供を殴る事がボランティアとはね? このリモットって街の奴らはクズばかりが住む街なんだな」

「なっ! しっ失礼な奴だな。おいっミント、さっさと妖精の宿木の葉を集めて来い。じゃないと水はやらん」

 店主はそう吐き捨てると、店の裏口から店内へと戻っていった。
 
 水はやらんって……何を言って? さっきいた広場に大きな水飲み場があったぞ?
 あのおっさんバカか?

「なぁ? ええとミントって言ったか? 水が欲しいなら広場に行こうぜ?」

 俺がそういうと、ミントは頭を横に振った。

「…………僕たち下民は……広場に行けないんだ」
「へ? 何だと?」
「下民専用の水場があってね。そこの井戸が枯れてしまって……この街に住む下民は、飲み水に困ってるんだ」
「枯れたって! そんなの緊急事態だろ? 広場の水を……」
「だめなんだ。広場に近づくと下民の紋から電気が走り、気絶して近寄ることが出来ない」

 また下民の紋……なんだこのクズシステム。

「お兄ちゃん心配してくれてありがとう。僕ら下民を心配してくれる人なんていないから嬉しいよ。きっとお兄ちゃんは違う国の人なんだよね。僕も下民なんてない国に行ってみたいな」

 そう言って俺に手を振り、ミントが走り去ろうとする。

「ちょっと待てよミント!」

 気がつくと俺はミントの手を握りしめていた。