乱道達が去った後。
 紋が消えたルミエールを連れ、魔法士長達は王城に戻ってきた。
 回復はしたものの、未だ体調がすぐれないルミエールを部屋まで送っていくと、何処かの一室に集合する。

「クソッ! 何じゃと言うのだワシを馬鹿にしおって!」

 乱道のことを一番馬鹿にしていた白髭の老人が、ガァンっと大きな音を立て目の前にあった椅子を蹴る。

 その姿を周りに立っている男達は、ただ黙って見ている。
 この白髭の老人が、魔法士長の中で一番偉いのだろう。
 このような不作法なことをしても誰も咎めない。

「ワシの誘いを断るなんて! 有りえない」

「確かにそうですね。ピクルス様」

 この中にいる男達の中ではまだ一番若い男が相槌を打つ。
 白髭の老人はピクルスという名前のようだ。

「あの男……乱道はどうやって下民紋を解呪したんじゃろう」

 ピクルスは納得がいかないのだろう。眉を顰めてギリっと歯軋りを噛む。

「紋は入れた者しか解呪できないのに! あの男には未知なる力があるのかも……」
「その未知なる力でルミエール様の紋を消したんじゃ……?」
「あの魔力量も恐ろしかった。我らはもの凄い間違いを犯してしまったのでは……」
「あの力を我がエスメラルダ帝国のために使ってくれたら……」

 男達が口々に乱道を逃した事を悔しがり、あーすれば良かった。こーすれば良かった。などと今更言ってもどうしようもない事を言い出す始末。

 そんな姿を見て、逃したサカナの大きさに、苛立ちを隠せないピクルス。

「あーもうっ! お前ら五月蝿い! 仕方ないじゃろう! まさか魔力測定器で測れんような、化け物並みの魔力量だと誰が思うんじゃ!」

 ピクルスは、机にあったグラスを掴んで投げた。

「ひっ!」

 それが一人の男に当たりそうになるも、ピクルスは気にもせず、次の言葉を続ける。

「魔道士達に、魔力測定器の機能の向上を研究させろ! 寝るまも惜しむな!」

「「はっ!」」

 男二人が走って部屋を出て行った。魔道士達の所へと行ったのだろう。

「……はぁ」

 ピクルスはため息を吐きながら、大きなソファに座り込む。

(それにしても……まさか偽物(ポンコツ)があれ程の力を持っていたなんて。それに側にいた謎の男はいつ仲間になったんだ? コチラの世界に呼び寄せてから、そんな時間あったか? あの獣人かよく分からん生物も……あれはなんだ?…………まさかあれが召喚獣? イヤそんな馬鹿な事があるか。話す召喚獣やまして人型など聞いた事がない)

 一人考え込むピクルスに、一人の部下が話しかける。

「ピクルス様……大丈夫でしょうか?」

 部下の男をチラリと見ると……

「……人型の召喚獣がいると思うか?」っと、ピクルスは少し自信なく質問した。

「人型? それはあり得ないかと。召喚獣は人語ですら話せませんのに。過去の文献全てを読みましたが、そのような事は記述されていませんでしたね」

「そうか……だよな」

(どうやって知り合ったかは分からんが、普通の人か……。謎の生命体もきっと獣人なのだろう。後は消えた紋……部下達が言っていたように大召喚士ルミエール様の紋は乱道が消したんじゃ……あの謎の魔道具に秘密があるんでは!?……う~ん。どれだけ考えても分からん! だがあの男が欲しい!)

 ピクルスがうんうんと頭を抱えていた時

「たたたっ大変です!」

 一人の男がノックもせず、息を切らせ部屋に入って来た。

「ノックもせんとどうしたと言うんじゃ!?」

 ピクルスが少し煩わしそうに返事を返す。

「そそっそれが! ルミエール様に新たな聖印が浮かび上がって来たのです」

 入って来た男はルミエールを看病していた者だった。

「何じゃと!? 聖印が現れた!?」

(何という事じゃ! 神はまだ味方してくれておる! もしレベルの高い召喚獣なら、あの乱道を連れ戻せる)

「よし! 今すぐ大召喚士様の所に向かうぞ」

 ピクルスは高笑いをし部屋を後にした。