インフェルノと詠唱した途端、地響きが起こり地面が揺れる。
 地面の揺れは激しさを増し、立っているのがやっと。

「おわっ!?」
『グラグラするっで……ちぃっ!?』

 琥珀が振動に耐え切れず、コロンっと我路の方まで転がって行く。

「琥珀!? だいじょ……え?」後ろに振り返った瞬間、ガキンッと何かが割れたような大きな音が響く。

 慌てて前に向くと。

「なっ!?」

 銀狼が作った氷の地面が砕粉々に砕かれ、太い火柱が噴き上がっていた。
 それはまるで、火山のマグマが噴火したよう。
 火柱は銀狼の真下から噴き出たが、察知した銀狼は瞬時に横へと避ける。
 だが間髪入れず、次の火柱が銀狼を襲い、避ける間も無く腹に直撃する。

『グオオオオオオオッ』

 銀狼は地を割くような雄叫びをあげた後、逃げる様に空高く飛び上がり、空中で氷の鎧を身体中に纏い守りを固める。
 だがその防御を嘲笑うかのように、着地地点には大きな火柱が一本、二本っと数を増やし、銀狼を待ち構えている。
 まるで炎に意志でも在るように銀狼をつけ狙う。
 数分もすると火柱は氷の鎧を砕き、銀狼の体が火柱の餌食となる。至る所から吹き出る火柱から、逃れる事が出来る訳もなく……。

 銀狼は焼け焦げた姿で足元から崩れるように倒れた。
 ピクピクっと体を震わせてはいるが、もう銀狼は虫の息だ。

「すげえ……」

 インフェルノって、こんなやべえ魔法だったのか。

 俺が呆然と銀郎を見ていると、他の奴らも同じ気持ちなのか。
 誰も言葉を発しない。

 シンっと静まり返る中、『はい! らんどーちゃまの勝ちでちね!』っと琥珀の何とも言えない間抜けな声が、響き渡るのだった。

 その声で正気に戻ったのか。

「なんだあの魔法は……!?」
「召喚獣を倒しちまうなんて……!」
「こんな奴が居るのか!?」
「嘘だろ? 大召喚士様が負けただと……!?」

 勝負を見にきていたギャラリー達が騒ぎ出す。

 ルミ野郎はと言うと、炎から逃げ遅れたのか、体の半分が焼け焦げ倒れていた。
 それを治癒するために、魔法師達が必死に回復魔法をかけている。

 確か召喚獣は……召喚師の体に戻らないと回復しないって、琥珀が言ってたよな?
 あの死にかけの銀狼はどうなるんだ? まだルミ野郎の体に戻ってねぇんだが。

「なぁ琥珀? あの銀狼は……ルミ野郎の体に早く戻らないと、消えるのか?」
『む? そうでち。でももう……戻れないでちね。ルミ野郎に魔力も体力も残ってないでちから』

 琥珀が少し悲しそうに俯き教えてくれる。

「じゃあ……アイツは消えてしまうのか?」
『そうでち。召喚獣仲間としては、ちょっとだけ悲しいでちがね』
「そうか…… 」

 ……なんだろう。
 あの凄え魔法に、必死に立ち向かっていた勇敢な姿を見たせいか、何とも言えない感情が俺の中で渦巻く。

『あっ! そうでちよ! らんどーちゃまなら助けられるかもでち。戦いが終われば皆兄弟でち!』
「うわっ! 琥珀!?」

 琥珀が訳のわからないことを言って、俺をグイグイ引っ張り銀狼の所に連れて行く。

『さぁ! ワレを使うでち!』

 琥珀が再びタトゥーマシーンの姿へと変化した。

「使うってもよ? お前はタトゥーの状態じゃないと取り込めないだろ? 銀狼(コイツ)はもう具現化してるぞ?」
『たっ確かにそうなんでちが……らんどーちゃまなら! どうにかなるかもでち! 何が起こるかは分かんないでちが……ゴニョ』

 ったく。また行き当たりばったりな考えなんだろうが、俺もコイツを殺したくはない。上手く行くかは分かんねーが消えるよりはマシだろう。

 琥珀を右手に握りしめると、銀狼のすぐそばまで近寄る。
 銀狼は『グルルル……』っと死にかけなのに俺を威嚇してくる。

「おい! 俺はお前を死なせたくないんだ。だからな? 大人しくしてくれ! 絶対に助けてやるから」

 威嚇してくる銀狼の目を見ながら俺は思いを伝えた。
 すると伝わったのかは分からねーが、銀狼は威嚇を止め大人しくなった。

「わかってくれたのか? 絶対に助けてやるからな?」

 俺がそう言うと、銀狼の尻尾が一度だけふわりと揺れた。

 それは良いって合図ととるぞ?

「よし!」っと気合いをいれた後。

 タトゥマシーンとなった琥珀を、銀狼の首筋にあてた。

 銀狼がキラキラと光り輝き、光の粒子となっていく。

 その粒子が一箇所に集まり…………!?

「はっ?」
 
 白銀の毛並みをした可愛い子犬が現れた。