「暑いな……」

 空を見上げると、太陽によく似た星が二つ並んで浮かび、力強い日差しで燦々と照りつけてくる。
 元の世界では一つしか無かった太陽が二つ。その二つが織りなす力強い日差しが、ここは異世界だと物語っている様だ。

 俺たちは城下町イスカンダルを出て、大きな広い平原にまで歩いて来た。
 この場所にも小さな魔獣はいるんだが、弱い魔獣なのか襲って来ない。

「なぁ? こんな場所まで移動してする事か?」
「何を今更? 広い場所でないと、我が召喚獣が召喚できないでしょう? 街で召喚獣を出すと壊してしまいますからね?」
「そりゃそうだがな」

 いつの間にやら、俺とルミ野郎の周りには、大勢の人で人集りが出来ていた。
 ギルドにいた冒険者達だけでなく、街の人達まで集まって来ている。
 手に串焼きを持ち、食べながら見ている奴も居て、まるでお祭り騒ぎだ。

 中には俺とルミ野郎のどっちが勝つかと、賭けまではじまる始末。

「では勝負と行きますか。ええと確か、乱道と名乗ってましたか? 乱道が私達の前で平伏し、もう二度と嘘はつきませんといったら、許してあげてもいいですよ?」

「へーソレハお気遣イアリガトウ」

 ルミ野郎はニヤリと口角を上げてシタリ顔で笑う。俺が土下座するとでも思ったんだろう……だがな?

「さっさと勝負しよう(やろう)ぜ? こんなにギャラリーも集まっている事だしな?」
「……っ! 馬鹿な男だな。いつまでその威勢が続くのか見ものだな」

 ルミ野郎は羽織っていたローブを脱ぎ、大袈裟に投げ捨てる。

「「「「おおーっ!!」」」」

 観客達からはルミ野郎の聖印を見て、大歓声が巻き起こる。

 大歓声を聞いたルミ野郎は、嬉しさが隠しきれてないのか、鼻の穴がピクピクと広がっている。

『さぁ! らんどーちゃま。行くでちよ?』
「琥珀どうする気なんだよ?」
『どうするって、あいつの聖印を消して奪ってやるでち』
「なるほどな。消して奪うのか……って!? は?」
『だからぁ。クソ野郎(アイツ)から聖印を奪ってやるんでちよ!』
 
 そんな事が出来るのかよ!?

『らんどーちゃまのレベルが上がった事で、ワレの新たなる力が解放されたんでち』

 琥珀はマシーン姿なのに、フンスっとふんぞり返っているよう。

「マジで?! 琥珀すげえじゃねーかよっ」
『ふふふっそうでち。さぁ行くでちよ? あいつが詠唱し終える前に、聖印を消して奪うでち』
「りょーかいだ!」

 俺は足に力を入れると、前に向かって思いっきり蹴り上げた。
 すると体が飛ぶように動き、ほんの一瞬でルミ野郎の懐に入り込んだ。

 ルミ野郎はカッコをつけ、両手を上に掲げて詠唱していたので、上半身がガラ空きだ。
 俺はすぐさま胸に描かれていた鳥の聖印に、琥珀を当てた。

 すると聖印から神々しい鳥がふわりと羽ばたき現れる。
 次の瞬間。タトゥーマシーンの中へと、吸い込まれるように消えていった。

「はっ!? え?」
 
 詠唱の途中で、鳥が現れたかと思ったら忽然と姿を消したので、ルミ野郎は何が起こったのか理解が追いついてないようだ。

 口をあんぐりと開け、物凄い間抜けな顔をしている。

「ブッッ……ククッ」
『間抜けなお顔でちね。プププ』

 ルミ野郎は聖印が消えた事には、気づいていないようだ。

 それよりもいきなり目の前に現れた、俺に対して驚いている。

 俺が現れた所為で、詠唱が中途半端となり、鳥が 消えたと思ったのか、逃げるように慌てて離れると、再び詠唱を始めたので、また同じように近づき、今度は亀の方も消してやった。

 亀の聖印も鳥の時と同じ様に、フワリと一瞬飛び出るもすぐさま琥珀の中へと、吸い込まれるように消えていった。

「琥珀すげえな……」
『ふふふっそうでち? ワレは凄いんでちよ!』
 
 琥珀のドヤり顔が、タトゥーマシーン姿なのに見えるようだ。

 亀を奪うと、俺は一旦ルミ野郎から離れた。

 ルミ野郎は再び詠唱を始めるが、詠唱を終えても鳥が現れない事に首を傾げている。

 ふと……爺さん達の方を見ると、ワナワナと真っ青な顔で震えている。
 どうやら聖印が消えたことに気付いたようだ。

 クククッもう遅いがな? お前達の大召喚士様は終わりだ。