「何だこれ! ドラコンの肉ってこんなに旨いのか!」

 濃厚な脂なのにあっさりしていて、口の中に旨味だけが広がる。
 肉質だって柔らかすぎず、程よく弾力もあり……日本の牛より旨いぞ! ってか今までで食った肉の中で最強に旨い!

『乱道様、そんな慌てて口いっぱいに詰め込まなくても……肉は逃げませんよ? それに急いで食べると、喉に詰まりますよ?』

「もぐっ……ッテル! ゴキュッ! 分かってるよ! でも旨すぎて。ついな」

 夜に食べ損ねたドラゴンの肉を、我路が朝食として出してくれたんだが、旨すぎて箸が止まらない。

 ドラゴンがこんなに旨いとは……。

 ん? 箸? そういや何で異世界に箸があるんだ?

「なぁ我路? この箸はどうしたんだ?」
 
 俺は右手を上げて我路に箸を見せる。

『ああ。それは私が作りました。やはり乱道様には、母国で使っていた箸が必要かと思いまして、夜中に作ったんですよ。気に入って頂けましたか?』
 
 我路が他にも作った箸を、ジャラッと机に並べる。 
 どれも綺麗な模様が描かれていたり、細かな彫りまで入っている。それを夜に?
 我路はこんな事まで出来るのか。万能すぎるだろ。

「最高だよ。ありがとうな」
『ふふ。気に入って頂けて何よりです』

 我路は少し嬉しそうに微笑んだ。

『ムゥ……おはようでち』
「うゆう!」

 琥珀と稲荷が目を覚ました。
 さてと準備をして、冒険者ギルドに向かうか。



★★★


 ギルドの扉を開けると、中に居た奴らが一斉に俺を見る。

 なんだ!? 驚いている?

「あんな奴がドラゴンを!?」
「ヒョロっちいのに!?」
「ほらっ? 狐の獣人と奇妙な虎を連れているじゃねーか」
「……そうだな。噂どうりだな」
「ワイバーンってAランク魔獣だよな?……マジかよ」
「オークの集団もだろ?!」
「…………ゴクッ」

 おいおいコソコソ話になってねーぞ? 俺に丸聞こえだか?

 どうやら昨日ドラゴンやらオークやらを討伐した噂話が広まっているみたいだな。

 狐獣人に……奇妙な虎!?

『なんでち?』

 隣に立つ琥珀を見ると、あざとく小首を傾げてキュルンっと見て来たが……!!

 しまった—————っ!!! やっちまった。

 せっかく服を買ったのに! 
 色々あって琥珀に着せるの忘れてた! 
 これじゃ露出狂の獣人か、謎の生物。

 確かに目立つわ! すまない琥珀。

『どうしたんでちか?』
「んん? なっ何でもないさ。さてと……ギルマスに会うには……っと」
 ギルドを見渡すがギルマスはいない。
 サラサにでも聞いてみるか。

 サラサの受け付けに歩いて行くと、長蛇の列が。
 すげえ……こんなの一時間待っても順番が回って来ねえ。
 隣のお姉さんは、ガラガラなのに。

 待つのは時間の無駄だからな。あのお姉さんに聞こう。

「すみません。ギルマスに用があって来たんだが……」
「……!! あなたは昨日のっ魔力なしなのに魔力が使えて……ドラゴンまで倒せて……近くで見ると意外に……かっゴニョ」

 話しかけると、なぜかブツブツと独り言を言い、頬を染めて俯く。何だってんだ? 

「あのさ? ギルマスは?」
「あっ! すすっすみません。ワイバーン討伐の事を、王城に報告に行っていまして、もうすぐ帰ってくるかと」
「えっ? 報告!?」

 王城ってあの胸糞悪い奴らがいる所だろ!?

「Aランク魔獣や魔獣の大量発生(スタンピード)は、王様に報告しないといけませんので」
「…………そうなのか」

 何だろう……王城にいる奴ら(クソ野郎ども)の話を聞くと、気分が悪い。

『乱道様? どうされましたか? この国の王と何か?』

 我路がそんな俺の様子を見て、心配そうに話しかけてきた。

「んん? 何でもない大丈夫だ」
『そうですか? いつでも言って下さいね? 私が排除いたします』

 我路がにこりと微笑んだ。
 何だろう……笑っているのに殺気を感じるのは気のせいだろうか?

「アッ……アリガトナ」
 
 我路と話していた時だった。

 ギルドの大きな二枚扉はバーンっ!っと盛大に開き。
 ゾロゾロと黒いローブを着た男達を引き連れギルマスが戻ってきた。

 あの黒いローブは……城にいた爺さん達じゃ!?
 あれっ!? 俺と一緒に召喚された男も居る? ええとルミ……なんて言ったかな?
 まぁ良いか。

 とりあえず、嫌な予感しかしないわな。