『これは転移の魔道具ですね』

 我路は男達が座っていた場所に落ちていた、丸い手のひらサイズの石のような物を拾うと、それを転移の魔道具だと言った。

「転移の魔道具?」
 何だそれは? そんな便利な道具があるのか?

「これを使って、どこかに転移したんでしょうね。使い切りのようで、これはもう使えませんが」
「そんなんで何処かに瞬間移動出来るのか!?」

 ただの丸っこい石にしか見えないが。
 我路から【転移の魔道具】とやらを受け取り見せてもらった。

 よく見ると中央に大きな石が埋め込まれている。
 これが魔石と言って、色々な力が宿っている石なんだとか。
 そこに魔力や魔法の力を込めると、魔道具という色々な力を秘めた道具が完成するらしい。

 魔道具は魔導師と呼ばれる専門職の奴らが、作ってるんだとか。

 我路よ、何でお前はそんなに詳しいんだ。もとは俺のタトゥーだろ?

『さっ乱道様。ワイバーンの魔石を取りに行きましょう』
「魔石? え?」

『さっき話した魔石とは、魔獣の核です。すなわち心臓。強い魔獣ほど、大きな魔石を持ってますからね。ワイバーンの魔石なら期待できますね』

 我路はドラゴンを見ながら、少し口角を上げて笑う。そんな顔も悔しいがかっこいいぞ。
 
 あのドラゴンはワイバーンっていうのか。

『らんどーちゃま! 終わったでちか?』

 琥珀が稲荷を肩車したまま、こっちに向かって走ってきた。

「琥珀、稲荷を見ててくれてありがとな?」
『そんなの余裕でちよ!』
「うゆ!」
 俺は琥珀と稲荷の頭をくしゃっと撫でる。

『これは肉祭りでちね?』

 琥珀が肉祭りとか言い出した。
 おいおいドラゴンを食う気かよ? 
 どう見ても旨そうに見えねーぞ?

『そうですね。ワイバーンの肉は、極上に美味しいですからね。後で私が調理いたしますね』

 我路までもが琥珀と同じようなことを言って、うっとりとワイバーンを見る。
 そうなのか……見た目グロいが、アイツは旨いのか。

『では乱道様。解体しに行きましょう』

 我路が嬉しそうに、ドラゴンの死骸に向かって歩いて行く。
 その横をヨダレを垂らした琥珀が、テチテチとあざとく肉球を鳴らして歩く。
 琥珀よ死骸見てヨダレを垂らすとか、大概だな。
 ん? 稲荷もヨダレがダダ漏れじゃねーか。
 肩車している琥珀の頭に、ポトポトと雫が落ちていく。
 琥珀のふわふわの毛が……あーあ。


「こんな大きなワイバーンをどうやって解体するんだ?」

 近くで見るとやっぱりデカい。四メートルくらいあるか? それ以上かも。

『乱道様、私を使ってください』

 我路が再び日本刀の姿になった。
 ええっ? 俺が解体するのか? 
 てっきり我路がチャチャっとやってくれるのかと思ってたぜ。

 俺は再び我路の柄を握りしめた。
 この力が巡ってくる感覚、さっきの時よりも体に馴染んでいるのが分かる。
 感覚が研ぎ澄まされていく。

『では解体します』
「おおっ!?」

 自分じゃないような動きで体が勝手に動き、ワイバーンが綺麗に切り刻まれていく。
 何だこの華麗なる動きは。
 物の数分でワイバーンの解体が終わった。

『ではこの肉塊や骨など全て、アイテムボックスに収納してください』
「え? 肉だけで良いんじゃねーのか?」
『ドラゴン種は、全ての部位が貴重なんです。どの部位も高値で取引されていますよ?』

 ……なるほどな。勉強にナリマス。
 しっかし我路の知識は何処から得てるんだろう。不思議だ。

 だがこんなにいっぱい入るのか?

 試しに、アイテムボックスに入れる想像をして見ると、目の前にある肉塊や骨と全てが消えた。
 そして目の前に画面が現れ、何が収納されたのか分かるように、綺麗に並んでいた。

 アイテムボックスの凄さに感動していると。

「おおっ! 静かになったと思ったら。やっぱりドラゴンがいなくなっているな」
「いきなりワイバーンが現れた時は、どうしようかと思いましたね」

 聞き覚えのある。すごく耳障りな声が、後方から聞こえてきた。
 声のする方を見ると……やはりな。

 ワイバーンを見て、一目散に逃げたギルマス達が、仲間を引き連れゾロゾロと戻ってきていた。

 
 ……タイミングの良い登場でナニヨリ。