「さぁ乱道様、この水晶に触れてください」

 サラサが俺の前に水晶を出す。
 う~ん。水晶(コイツ)にはいい思い出がないが、触れないわけにはいかねーよな。
 
 俺はカウンターに置かれた水晶の上に手を置いた。

「…………えっ?」

 サラサの顔が驚いている。これは城と同じパターンか?

「すみません乱道様。どうやらこの測定器が壊れているみたいで……違うのを持ってきます!」

 サラサが裏へと走って行く。はぁ……やっぱりか。何度やっても同じだと思うが。
 
「もう一度これで測定させてください。何度も申し訳ありません」

 そう言って頭を下げるサラサ。
 次も同じ結果だと思うけどな……そう思いながら測定器の上に手を置いた。

「…………どうして!? そんな?」
 
 サラサの顔が青ざめる。

「サラサちゃーん? そんなに凄い結果なのか? この魔法師様の魔力は?」
「俺たちにも教えてくれよ!」

 男達はサラサの様子を見て、何か感じ取ったんだろう。結果を教えろと煽り出した。

「個人の結果は教えられません。さぁ皆様、下がってください!」

 サラサが煽る男達を、必死に退けようとしてくれる。
 ……だがそんな気遣いも虚しく。
 この騒めきに寄って来た別の職員が「なっ!? 測定不可能!?」っと大声で叫びやがった。

「ちょっと! ギルドマスター! 個人の情報を叫ぶなんて問題ですよ!」
「だってさ? 測定不可能なんてヤツ初めて見たからさっ……くくっ。魔力なしだぜ?」

 なんだ? この失礼な男がギルドマスターだと!? マスターって一番偉い奴のことじゃないのか?
 こんな奴が一番偉いとか、大丈夫かこのギルドって所は?

「何だって! コイツ魔力なしなのかよ! あはははっ」
「サラサちゃんも冗談がきついぜ? 魔力なしが魔法を使えるわけないだろ?」
「コイツに変な薬を飲まされて、幻覚でも見せられたんじゃないのか?」
「あははっ。魔力なしって……下民でもちったぁ魔力があるぜ?」

 男達が腹を抱えて笑い、俺を指差し馬鹿にする。

「そんな事ないんです! 乱道様は凄い魔法を使って、私を荒くれ者の熊獣人から助けてくれたんです!」

 サラサが熊獣人の話を出すと、ギルマスが少し呆れたようにため息を吐く。
「熊獣人ってBランクの兄弟だろ? 悪さばかりするが、ここらじゃ誰も逆らえなくって手を焼いていたんだ」

 あの熊獣人そんな悪い奴だったのか。

「そうですよ! その二人に襲われそうになっていたんです!」
「コイツが勝てるわけないだろう。何を言ってるんだサラサ?」

 ギルマスは一向にサラサの話を信じようとしない。
 まぁそうだろうな。城でもそんな扱いだったからな。

「それにだ? 魔力なしが魔法を使えるわけがないだろう?」
「でも! 本当なんです!」
「分かったよ。だが魔力が低いものには、下民の紋を入れないといけないからな。魔法師を呼んでこよう」
「ちょっと待ってください!」

 サラサが引き止めるも、ギルマスは奥に行こうとする。

 ちょっと待ってくれ! 
 またあの首輪を入れられるのか? 
 琥珀を使えばすぐに消せるが、もう一回あの紋を入れるとか、いい気はしねぇ。

「なぁギルマスよ? 俺が本当に魔法が使えたなら、下民の紋は入れなくていいのか?」
「魔法が使えたらな? だが魔力なしのお前では無理だろう?」
「それは見てもらったら分かる」
「はっ魔力なしが偉そうに、そんなに恥をかきたいならいいぜ? みんなの前で見せてくれよ、お前の魔法とやらを」

 ギルマスが馬鹿にした目で俺を見る。

「あはははっこりゃいいわ。俺たちも見学しようぜ?」
「そうだな。嘘つきが恥をかくのを見せてもらうか」

 サラサの件もあったからか、男達はギルマスの言葉に同調し、楽しそうにニヤニヤと笑う。
 まぁいいさ。笑っていられるのも今の内だけだ。

「じゃあ地下にある闘技場に降りて来い。サラサ? 嘘つき君を案内してやれ。俺は先に下りて準備している」

 ギルマスはサラサの肩を軽く叩くと「馬鹿に関わると痛い目見るぞ?」っと言って去っていた。
 
 ……聞こえてるよ。

「乱道様、私が騒いだせいでこんなことになってしまって、本当に申し訳ありません」
 サラサが泣きそうな顔をして、頭を下げる。
「大丈夫だ、そんな顔すんなって? 俺が魔法使えるの知ってるだろ? だから安心して見てろ」
「乱道様……はい!」

 さてと、なんの魔法を披露しようかな?