琥珀はどうだ凄いだろうっと俺をみる。琥珀さんよ? お前まだ何にもしてねーぜ?
 兎に角だ、さっきの懐中電灯の件があるからな、ぬか喜びしないようにしないと。

『ゲフン! ではそろそろワレの力を見せるでち!』

 そう言いながらも、俺に褒めて欲しそうにチラチラと見てくる琥珀。

 ええと琥珀さん? 早くその凄い力とやらを見せてくんねーかな?
 だが何かする気配は全くない琥珀。
 もしやこれは……俺の褒め待ちか?

「サスガ琥珀ダ。めっちゃ楽しみだぜハハハ」

 棒読みになったのは否めないが、俺は琥珀を誉めた。
 とにかく褒めた。

『もう仕方ないでちね? らんどーちゃまは待てないんでちから』

 琥珀はフンスっと鼻を膨らませると、次の瞬間高くジャンプした。

   《変化》

「なっ!?」

 何だこの姿は? 琥珀が奇妙な形に変化した。
 見ようによっちゃあ、俺がタトゥーを入れる時に使う道具にも見えるが……?

『ふふふ? 気付いちゃいまちた? ワレのこの姿に』

 奇妙な道具の形になった琥珀が、ふわふわと俺の周りを飛び回る。

「えっ? 気付く?」
『またまたぁ? とぼけちゃってぇ? わかってるんでち?』

 琥珀が奇妙な姿のまま俺の体をツンツンとつつく。
 いや全く可愛くない。
 琥珀のあざとさは、ぬいぐるみ姿の時にしか適用しないな。

「マジでお前が言いたい事がわからねえ」
『ふぇ?! 嘘でち? 絶対に分かるでちよ』

 奇妙な道具姿の琥珀がプルプルと震える。
 やばっこれは泣く手前だ!
 ええ~。何の姿なんだよ? 
 まさかタトゥーマシーンのつもりなのか?
 イヤ……でも違う可能性も。これはミスれないぞ。考えろ俺!

 集中集中!

 琥珀の姿を先から細かく見て行く……あっ!? あの先端はタトゥーマシーンの先の形にソックリだ! ほかは全く違うがな。間違いない!

「…………タトゥーマシーン?」

 俺がそう言うと、高速で俺の周りをグルグルと回り出した。
 これは合ってたのか? 間違ってたのか? どっちだ?

『さすがでち! ワレのこの美しいフォルムはそれにしか見えないでち! これはコハクDXタトゥーマシーンでち!』

 うっうわぁ……道具の姿なのに、ドヤってるのが分かる。何だよ、そのDQNネームは。

『さぁ! このコハクDXタトゥーマシーンでその下民紋を消すでち!』

「えっ? 消す?」

『そうでち、ワレはタトゥーを描くことも消すこともできるでち!』

 消したり描いたり出来るって!? そんな夢のようなマシーンないぞ?
 しかも俺の首にあるのは、タトゥーじゃなくて紋なんだが消せるのか?

「ゴクッ……」

 俺は琥珀を手に持ち先端を首に当てた。

「あっ?」

 首が暖かくて気持ちいい、ふわふわと優しい何かに包まれているみたいだ。

『どうでちか? キレーに消えたでち? ワレ凄いでち?』

「…………消えた?」

 琥珀が消えたという。嘘だろ? あんなのでか?
 自分の手で首を恐る恐る触る。

「!?」

 さっきまであった何とも言えない、ザリザリとした気持ち悪い感覚がない。

「消えてる!」

『でちょう?』

 いつの間にかぬいぐるみ姿になった琥珀が、得意げに俺を見上げていた。

「すげーよ琥珀! 本当は疑ってたんだけどさ、まさか本当に消せるなんて! お前最高だ!」

『ぬ? 疑ってた? ワレを?』
 
 琥珀が眉を(しか)め俺を睨みそうだったので、琥珀を抱き上げギュッと抱きしめた。

「ありがとうな琥珀」

 俺は琥珀のふわふわの腹毛に顔を埋めた。ちょっと泣きそうだったからとかじゃないからな。

『ふふ……くすぐったいでち』

 これでもうあいつらの言うことを聞かなくていい! 
 
 本当よかった。