ロイヤルルリロージュ学園高等部二年、その中に一人、幽霊のようなはたまた空気のような生徒がいる。彼の名前は、鎌谷弔<かまやとむら>。死神本家の次男である。彼の詳細は誰も知らず、いるはずなのにいない、それが弔だった。
「何それ、酷。」
そう言い放ったのは学年一の有名人、綾野茉莉花<まりか>。フェアリー本家の末席であり、兄弟に侑李などの三つ子を持つ魔法士一家の末娘。正直な物言いと完璧な文武両道ぶりでも有名である。
「酷いって……そいつがいないか」
「いや、いるし。講堂の一番後ろの窓側の席にいつも来てるよ。つか、人に向かって幽霊とか空気とか最低すぎる。」
「みんな言ってるから!」
「みんな言ってたら言っていいのかよ。ごめん、私あんた無理だわ。」
「っ……!!」
茉莉花と話していた生徒はそそくさと講堂を出ていった。
(あんなこと言ってくれる人……いるんだ……)
その会話を弔は聞いていた。弔は極度のコミュ障なだけで、もちろん友達は欲しいと思っている。ただ上手く話せる自信がなく、幽霊のようにしれっと講堂に入り、しれっと授業を受け、しれっと帰るのだ。
先程のお礼をしたいが、やはりどうも勇気が出ずいつも通り講堂に入る。
「……あ、ナイトソードファンタジーだ。」
通りすがりの弔に茉莉花がつぶやくように話しかけた。弔のカバンに付いてるキーホルダーが目に入ったようだ。
「え、し、知ってるの……?」
ナイトソードファンタジーとは高画質グラフィックが売りのアクションロールプレイングゲームだ。
「知ってるつか、やってるし。弔もやってるの?」
「や、や、やってる……」
「面白いよな。どこまで進んでる?」
「も、もうちょっとで、城下町……。」
「はや。私まだ洞窟なんだよな……」
なかなか抜けられなくて、そう言う茉莉花。弔はいつの間にか茉莉花の隣の席に座っていた。
「どっちでやってる?PC?スマホ?」
「スマホ……茉莉花さまは……?」
「さま、なんてやめてよ。茉莉花でいいからさ。私もスマホ。」
流れでフレンドになり一緒にやる約束もした。
「あ、あの……」
「ん?どうした?」
「……さっき、俺のせいで、喧嘩させてごめんなさい……でも、ありがとう……」
茉莉花は数秒考えてやっと思い出した。
「全然。普通に嫌だったから言っただけ。それに、」
新しく友達出来たしチャラだろ、茉莉花は弔に向かって歯を見せて笑う。
「友達……俺が?」
「逆に他に誰がいんだよ。これからもよろしくね。」
弔は頬を赤らめながら数度頷いた。
相変わらずコミュニケーションに乏しい弔だったが、前とは少し違った。
「最深部のドラゴンにまたやられた……」
「分かる……俺も結構かかった。」
しょっちゅう茉莉花とゲームの話で盛り上がり、学年での認知も上がった。
「ねぇ、あいつと友達やめなよ。」
「お前らに言われる筋合いないんだけど。」
弔は遭遇してしまった。茉莉花と女子生徒が言い争いしてる。話題は弔のこと。
「あんなへっぽこ死神といて何になるの?いつか呪われるよ?」
「根拠もねぇこと言って」
「大魔法使い侑李さまの妹はこんなもんですかって。」
「っ……!!!」
強く出た茉莉花もさすがに引いた。
「兄さんらは関係ないだろ!」
「あるでしょぉ。同じ血を引くんだからさ。」
友達と言ってくれた茉莉花が一方的に言われている。きっと昔の弔ならば無視していただろう。
けれど……
「茉莉花を悪く言うな!!」
そんなことはできなかった。
「っ……!!弔……?」
「茉莉花はこんな俺の事だって気にしてくれる、話してくれる優しい人だ!悪く言うのは俺だけにしろ!友達を悪く言うなら俺も容赦しねぇ!!」
女子生徒は居心地悪そうにその場を去った。
「はぁ……はぁ……こ、怖かった……」
あまりの恐怖に腰が抜けて廊下に座り込んでしまった。伸びてくる手が一つ。
「なかなかやるじゃん。かっこよかったよ、弔。」
傷ついてるのにも関わらず、笑顔を見せる茉莉花。
(違う……違うんだ……)「違う……」
「え、?っ、きゃっ!」
手を引いて目線を合わせた。
「そんな顔させたかったんじゃない……」
「弔……?」
「こんな俺だから、言いたくなくて、嘘ついた……けど……!」
手が震えている。先から血が引いていく感覚すらある。でも、言わなくてはならない。
「俺にとって茉莉花は大切な人だ。隣にいたい、一日中一緒にゲームして、寝て……そうしたいぐらい……好きな人だ……」
茉莉花の肩に頭を乗せ、優しく抱きしめた。
「答えなんて分かってるから、言わなくていいよ。邪心だね、ごめ」
急に口を塞がれる。気づけば茉莉花の唇と重なっていた。
「邪心とか言うな。……もっとかっこいい男になったら、考えてやってもいいな。」
いたずらっぽく笑う茉莉花はとても楽しそうだった。
次の日、茉莉花は眠そうに机に伏していた。
「お、おはよう……茉莉花///」
「んぅ……?弔、おはよ……って、えぇ!!」
驚くのも無理は無い。顔の半分を隠していた前髪が綺麗に切られていて、顔を隠すためのフードもない。
「へ、変かな……」
「なんで……」
「『かっこいい男』ってよく分からなかったから、形から入ろうと思って……やっぱり柄に合わないかな……?」
「別に……」
茉莉花はまた机に伏す。アワアワと焦る弔を横目に目をつぶった。
(顔がいいのは……私だけの秘密だったのに……)
「何それ、酷。」
そう言い放ったのは学年一の有名人、綾野茉莉花<まりか>。フェアリー本家の末席であり、兄弟に侑李などの三つ子を持つ魔法士一家の末娘。正直な物言いと完璧な文武両道ぶりでも有名である。
「酷いって……そいつがいないか」
「いや、いるし。講堂の一番後ろの窓側の席にいつも来てるよ。つか、人に向かって幽霊とか空気とか最低すぎる。」
「みんな言ってるから!」
「みんな言ってたら言っていいのかよ。ごめん、私あんた無理だわ。」
「っ……!!」
茉莉花と話していた生徒はそそくさと講堂を出ていった。
(あんなこと言ってくれる人……いるんだ……)
その会話を弔は聞いていた。弔は極度のコミュ障なだけで、もちろん友達は欲しいと思っている。ただ上手く話せる自信がなく、幽霊のようにしれっと講堂に入り、しれっと授業を受け、しれっと帰るのだ。
先程のお礼をしたいが、やはりどうも勇気が出ずいつも通り講堂に入る。
「……あ、ナイトソードファンタジーだ。」
通りすがりの弔に茉莉花がつぶやくように話しかけた。弔のカバンに付いてるキーホルダーが目に入ったようだ。
「え、し、知ってるの……?」
ナイトソードファンタジーとは高画質グラフィックが売りのアクションロールプレイングゲームだ。
「知ってるつか、やってるし。弔もやってるの?」
「や、や、やってる……」
「面白いよな。どこまで進んでる?」
「も、もうちょっとで、城下町……。」
「はや。私まだ洞窟なんだよな……」
なかなか抜けられなくて、そう言う茉莉花。弔はいつの間にか茉莉花の隣の席に座っていた。
「どっちでやってる?PC?スマホ?」
「スマホ……茉莉花さまは……?」
「さま、なんてやめてよ。茉莉花でいいからさ。私もスマホ。」
流れでフレンドになり一緒にやる約束もした。
「あ、あの……」
「ん?どうした?」
「……さっき、俺のせいで、喧嘩させてごめんなさい……でも、ありがとう……」
茉莉花は数秒考えてやっと思い出した。
「全然。普通に嫌だったから言っただけ。それに、」
新しく友達出来たしチャラだろ、茉莉花は弔に向かって歯を見せて笑う。
「友達……俺が?」
「逆に他に誰がいんだよ。これからもよろしくね。」
弔は頬を赤らめながら数度頷いた。
相変わらずコミュニケーションに乏しい弔だったが、前とは少し違った。
「最深部のドラゴンにまたやられた……」
「分かる……俺も結構かかった。」
しょっちゅう茉莉花とゲームの話で盛り上がり、学年での認知も上がった。
「ねぇ、あいつと友達やめなよ。」
「お前らに言われる筋合いないんだけど。」
弔は遭遇してしまった。茉莉花と女子生徒が言い争いしてる。話題は弔のこと。
「あんなへっぽこ死神といて何になるの?いつか呪われるよ?」
「根拠もねぇこと言って」
「大魔法使い侑李さまの妹はこんなもんですかって。」
「っ……!!!」
強く出た茉莉花もさすがに引いた。
「兄さんらは関係ないだろ!」
「あるでしょぉ。同じ血を引くんだからさ。」
友達と言ってくれた茉莉花が一方的に言われている。きっと昔の弔ならば無視していただろう。
けれど……
「茉莉花を悪く言うな!!」
そんなことはできなかった。
「っ……!!弔……?」
「茉莉花はこんな俺の事だって気にしてくれる、話してくれる優しい人だ!悪く言うのは俺だけにしろ!友達を悪く言うなら俺も容赦しねぇ!!」
女子生徒は居心地悪そうにその場を去った。
「はぁ……はぁ……こ、怖かった……」
あまりの恐怖に腰が抜けて廊下に座り込んでしまった。伸びてくる手が一つ。
「なかなかやるじゃん。かっこよかったよ、弔。」
傷ついてるのにも関わらず、笑顔を見せる茉莉花。
(違う……違うんだ……)「違う……」
「え、?っ、きゃっ!」
手を引いて目線を合わせた。
「そんな顔させたかったんじゃない……」
「弔……?」
「こんな俺だから、言いたくなくて、嘘ついた……けど……!」
手が震えている。先から血が引いていく感覚すらある。でも、言わなくてはならない。
「俺にとって茉莉花は大切な人だ。隣にいたい、一日中一緒にゲームして、寝て……そうしたいぐらい……好きな人だ……」
茉莉花の肩に頭を乗せ、優しく抱きしめた。
「答えなんて分かってるから、言わなくていいよ。邪心だね、ごめ」
急に口を塞がれる。気づけば茉莉花の唇と重なっていた。
「邪心とか言うな。……もっとかっこいい男になったら、考えてやってもいいな。」
いたずらっぽく笑う茉莉花はとても楽しそうだった。
次の日、茉莉花は眠そうに机に伏していた。
「お、おはよう……茉莉花///」
「んぅ……?弔、おはよ……って、えぇ!!」
驚くのも無理は無い。顔の半分を隠していた前髪が綺麗に切られていて、顔を隠すためのフードもない。
「へ、変かな……」
「なんで……」
「『かっこいい男』ってよく分からなかったから、形から入ろうと思って……やっぱり柄に合わないかな……?」
「別に……」
茉莉花はまた机に伏す。アワアワと焦る弔を横目に目をつぶった。
(顔がいいのは……私だけの秘密だったのに……)