ガチ疲れた。この金曜日のタイムテーブルなんだよ。三コマと実習とか鬼畜かよ。あ゛ぁぁ疲れた……
「ただいま……」
 誰もいるはずのない部屋に一言。僕の名前は綾野侑李、大学一年生。フェアリー本家の末席、ではあるがそれなり知名度のある魔法士をしている……一応。
 はぁ……つかもうこのまま寝ちゃおう。風呂入る気力もないわ。そう思ってトボトボフラフラとリビングに向かう。
「……んぅ?わぁ……侑李くんだぁ……♡」
 まじか……ついに疲れすぎて彼女の幻聴……
「……っじゃない?!乙姫?!なんでここに?!」
 眠そうに目を擦る彼女こと乙姫。ついこの前高等生になり、まだ体が慣れてなく疲れているはずだ。
「だって、乙姫、侑李くんに会いたかったんだもん……」
 え、かわいいかよ。身も心も天使かよ。かわよ。つか、めっちゃ眠そうなのかわよ。疲れまじ吹っ飛んだ。かわよ。
「でももう寝よう?遅いから、ね?」
「んぅ……」
 僕が買ったジェラピケを萌え袖ぇ……!!極限まで眠そうな彼女を抱っこし、ベッドに寝かせる。よく働いてるな、僕の理性。
 爆速で着替えて、歯磨きとスキンケアをすませ、静かに寝室に入る。案の定、乙姫は寝ているが……
「むにゃむにゃ……すぅ……すぅ……んふっ、へへへ///」
 いや、かわいすぎってばぁ!!僕のパーカー抱いてるとか反則!おかげで愚息は今日も元気だ。
 いやいやいや、寝よ。疲れてるから、うん。寝よ?そう自分に言い聞かせてベッドに入る。
「うぅ……えへへ、んぅ……」
 入ってすぐ、パーカー捨てて僕に抱きつくの?!乙姫さん?!犯罪ですよ?!犯しますよ?!もう、可愛すぎだって!

 結局その日一睡も出来なかった。

「乙姫さん?朝ですよ。起きてください?」
「うぅ……もうちょっとぉ……」
 モゾモゾと布団に潜るのかわいすぎ。
「起きないとチューするよ。」
「……すぅ……すぅ……」
 狸寝入りするの?!乙姫さん!?え?!かわいいの供給過多すぎて僕死にますけども?!
「……乙姫……まだ寝てるよ……?」
 布団から顔半分だけ出して、上目遣いで言ってくるんだが?え、可愛いすぎる寝言だこと。僕は布団を少しめくりちょっと長めのキスをする。
「うふふ♡おはよう……侑李くん。」
「おはよう、乙姫。」
 一三〇センチしかない乙姫が、僕の上に乗ってくる。
「甘えん坊だね。どうしたの?」
「乙姫、侑李くんに会いたかったの。だから昨日合鍵で入ったの。迷惑だった?」
 いえいえ全然、すごく良い供給でした。ご馳走様です。おかげでHPは全回復です。
「ううん。僕も会えて嬉しいよ。」
「ほんとぉ?!えへへ///来てよかった!」
 あーー……笑顔よ……死ぬ……今日僕死ぬ……天使かよ……いや天使だわ……はぁ……

 こんな可愛いカワイイ彼女との出会いは偶然だった。

 出会いは僕が高等一年生の時。乙姫は中等一年生で学園に来たばかりだった。乙姫の兄虹輝が僕と同級生で友達だった。極度の人見知りな乙姫は昼休みの度に虹輝に会いに来てて、そこで出会ったのが始まり。
 小さくて可愛いな、とは当時から思っていた。頭を撫でるとすぐ顔を赤くして、頬を膨らませる。胸をポコポコと叩いてくることもあったし、すごくからかいがいがあった。当時、精神的な疾患で人と話すのが苦手だった僕にすごく懐いた。

 転機が来たのはそれから少し経った頃。虹輝が学園を辞めた。孤児生のカモになっていたのを、辞める前日に聞かされた。カツアゲ、パシリ、サンドバッグ、強姦まで……
 天使族の次期当主としては、いけない事だったがどうにも抗えなかった。抗ったら乙姫に手を出す、と脅されたらしい。人にバラしても同じ。一人で抱え込んだ結果、彼は部屋から出られなくなってしまった。
 乙姫は孤立した。頼れる兄もいない。同級生に友達もいない。孤児生には冷やかされ、彼女がターゲットになりつつあった。
「おめぇの兄貴、逃げたらしいじゃん!」
「ちがぁ……ぅ……ぅぅ……」
 汚い笑い声と乙姫の泣き声。見逃せ無かった。
「乙姫、気にすることないよ。行こう。」
「ゆ、侑李先輩?!」
 肩を抱き半ば強引に孤児生から引き剥がす。輩に背を向けてすぐ、
「…………decadimento<腐敗>」
 そうつぶやく。僕の潜在魔法「decadimento」はその名の通り「対象を腐敗させる」魔法。危険魔法参考書にも掲載された、「人を殺す」魔法だ。
「侑李先輩……?」
「なんでもないよ。」
 その日からそいつらは行方不明だけど、なんでだろうね。

 虹輝の妹だからとかそういうのはなくて、ただ乙姫を守りたかった。
「あの……!侑李先輩……///」
「ん?どうしたの?」
「その……わたし……侑李先輩が好きです……///!!」
 二年生になる頃くらいに、初めて乙姫に告白された。顔を真っ赤にしていて、すごく可愛かった。でも、
「ごめん。僕まだそういうの考えられなくて。」
 それは年齢的にも精神的にも。他人に無関心を貫いてきた僕が、誰かを好きになるという考えを当時は持っていなかったのだ。
 でも、乙姫は諦めなかった。自分磨きを始め、定期的に僕に告白してきた。だんだん僕もそれが楽しみで、でも断っていた。自分が誰かと長く過ごせるのか不安だった。乙姫といるのを怖がった。

 また呼ばれた。それは乙姫が中等部を卒業する日で、僕もまた高等部を卒業した。中等部棟の校舎裏、いつもの如く呼ばれた。
「侑李先輩……私、侑李先輩が好きです!」
「……ありがとう」
 その日も断る気でいた。でも、どうやら乙姫の様子がいつもと違う。
「乙姫……?どうしたの?」
「ぅ……ぅぅ……」
 泣いているのだ。無論、僕は何も言っていない。なんだか乙姫が泣いているのは、僕も辛かった。こんなの初めてで、思わず乙姫を抱き締めた。
「なんで……泣くの……?」
 多分、散々孤立主義を貫いてきた僕が、初めて他人に興味を示した瞬間だと思う。
「…………私っ……今日で……告白するの……最後にしようと思ってたんです……」
 大学生になる僕の迷惑になるから、と卒業を機に諦めようとしたらしい。
「…………」
「でもっ……やっぱり……先輩のこと好きです………大好きなんです……ごめんなさい……」
 苦しかった。乙姫が泣いているのに、自分も辛くて苦しくて痛くて。その時気がついたのだ、もっと乙姫といたい、と。
「…………好きだよ……」
 呟いてみて、心にストンとはまる。
「……え、?」
「好き……うん、大好きだよ乙姫……」
 僕より頭一つも小さい乙姫をギュッと抱きしめる。
「ふぇ……///」
 乙姫への溺愛が始まったのはこの日からだ。

「侑李がぁ……侑李がぁぁ……」
「和也泣きすぎね、?」
 どうも(一応)妹の瀬玲奈です。隣の泣いてる男は(一応)兄の和也です。今、散々人を避けてきたもう一人の(一応)兄の侑李が付き合い始めました。
 ガチ長かったです。ほんと。
 というのも侑李は生まれつき精神的な疾患で、依存するほど好きな物とマジで関心ない物の差が激しかった。和也は依存される側で、今「弟離れ」に感動し泣いている。
 正直、侑李はこの後どうなるか心配だった。最近は安定しているが、いつ発作を起こすか分からない。心の拠り所があれば別だが、その心配も無くなりそうだ。
 バカップルになるのも時間の問題か。