彼と会ったのは、向日葵の森。燦々とよく晴れた正午。太陽と間違えるほど、輝いた子だった。
「陽菜〜!一緒に帰ろ!」
「いいよ、日向」
 幼なじみの自転車の後ろに乗る。風を吹き抜ける放課後。心地いい田舎道を駆け下りていく。
 日向と私は幼馴染。そして私はずっと彼に片思い中。まあ、日向は私の気も知らないけど。花屋の彼と向日葵農家の私。きっと長い付き合いになるからこそ、「恋心」を捨てた。友達でも、ただの幼馴染でもいい。近くに居れさえすれば、それでいい。私を向日葵畑の前で降ろす。
「遠回りなのに、ありがとう」
「全然大丈夫!熱中症になっちゃう方が大変でしょ」
気をつけて、と言って自転車を走らせた。風を颯爽と切っていく。金色の髪が反射して輝く。ダメだと分かっているのに、思うほど好きになる自分が嫌になる。日が暮れる前に花を積んでしまわないと。鍔の大きい麦わら帽子を被って、咲頃の向日葵を切っていく。
 朝日が登る前、水に差しておいた花を店に届ける。水が勢い良く流れる音。ごめんください、というとおばさんが出ていた。彼は走りに出かけたらしい。会えると思って少しお洒落してきたが、仕方ない。早々に帰ってしまおう。
「あれ?陽菜?!」
 驚く日向の声。帰ってきたのか。謝りながら花を受け取った。部活は無所属なはず。なんで?と聞いてみると、なんとなく、と笑った。なにそれ、と言って帰る。
「あ、陽菜!巻いてる髪、かわいい!」
手を振る彼が、好きだ。。浮き足立つ私。何故かざわつく自分もいた。
 次の課外、こんなことを聞いた。日向に好きな子がいるらしい。ざわざわする。その日も誘われたが帰る気になれなかった。あの言葉は嘘なのかもしれない。何度も反芻して飲み込んだ。
 それから日向を避けるようになって、話す機会も減っていった。課外が終わって本格的に夏休みになる。雨の日、いつも通り切った向日葵を店へ持っていく。この時間、日向は走っているのでいない、はずだ。おばさんに花を渡して帰る。
「あ、陽菜!」
 日向がいた。まるで待ち伏せしていたように。私は逃げた。会いたくなかった。追いかけてくる日向。お互い必死だった。当然にも追いつかれ、手を掴まれた。いくら手を振っても離してくれない。
「なんで避けるの」
 一言それだけ言って、手を離した。逃げていいよ、と言ってるようで、少しムカついた。振り返って彼の胸を叩く。
「なんで!なんで追いかけるのよ!私は日向が好きな子といられるようにって避けてるのに!私は、日向が好きで、本当は、一緒にいたいのに……」
陽菜、と呼ぶ声ひとつ。体に強い圧力を感じた。暖かい日差し、日向に抱きしめられている?
「俺が好きなのは陽菜だよ!陽菜にしか可愛いなんて言わないから!」
 両思い、嬉しくないはずがない。雨の降る日、突如にして晴れたのであった。