例年だったらもう雨が降っている頃。相変わらず空はからりと晴れ上がり、太陽の光が地に降り注いでいた。雨雲と言わず綿雲さえも空に見受けられず、村中に雨への心配が広がっていた。水凪は相変わらず姿を見せず、悪いことに、何故か今年に限ってこの時期に咲くはずのない渇きの大桜が春に続きもう一度花をつけた。

ひとつ、ふたつと増えていく桜の花は、やがて満開になって風に揺れた。言い伝えの中だけで聞いていた奇妙な現象に人々の不安が最高潮に達した、そんな時だった。

「あいつが悪いんだ。今まで平穏だったこの郷にこの前から住み着いているやつ。あいつが水凪様を怒らせたんだ。俺、見たんだ。あいつは以前、泉に入って神様の泉を汚した。それに、千代を取り合って、喧嘩になってた。だから神様がお怒りになったんだ」

瀬楽だった。千臣に対して疑心暗鬼になりすぎた瀬楽が、村人に触れて回っていた。村人はそれまで好意的だった態度を変えた。千代に返事を書きに来た千臣は、彼を血眼になって探していた村人に捕まってしまった。

「あんた、神様の泉を汚したっていうのはホンマか」

「そう言えばあんた神様に向かって拳を振るっとったな」

「千代は神嫁なのに、それを取り合ったってホンマか」

「雨が降らんのはあんたの所為か」

「出て行ってくれ。罰当たりなやつはこの村から出て行ってくれ」

「いや、出て行くだけでは神様は鎮まらん。あんたを人柱に立てたら、神様は許してくれるかもしれへん」

口々に千臣を責める言葉が聞こえてくるのを、千代は辛く聞いた。千臣が言っていた信じる心と言うものが、こんなところで悪い方向に出ている。なんとしてでも止めなければならなかった。

「千臣さんは悪くないんです。泉に入ったのは確かですが、神様はお怒りになったりしてません」

千代が村人を説得しても、村人たちの怒りは収まらなかった。

「そうだ、千代。こういう時こそ、お前の出番じゃないのか。あいつを人柱に供えて祈りを捧げてくれ。雨が降らんことにはこの村は飢えてしまう」

「水凪様を呼び戻してくれ」

村人が天を仰いで、水凪様、水凪様、と唱え始めた。するとその時、神社の本殿の扉が大きな音とともに激しい爆風で開き、其処から白い閃光が放たれた。