「ねえ綾人聞いてよ~バ先の女の子がストーカーされてるっていうんだけどさ、お前最近冬也とそんな話してたよな?」

「ん? うん、まああいつのストーカーはちょっと特殊っぽいけど」

 冬也に続いてそんな話を聞かされるとは思わなかった。
 とはいえ、今まで気づいてないだけですぐそばで犯罪が起きているとか、やべー奴とすれ違ったとかはたくさんあるんだろうしな、と思っているからタイミングが良いだけ……と思いたい。

 ストーカーの年間の発生件数は500件越えだという。
 そんでそれは年々増えているそうだし、相談されないのももっともっとあるって思ったら珍しくないのだろう。

 大体、冬也のは自業自得みたいなとこあるし。
 あいつ、彼女にばれたらどうするつもりなんだろう。

「川女の子でさ、まあぱっと見でかわいいな~って感じの顔」

「川女ってお嬢じゃねえの」

「いや、苦学生? 苦しくはないか、まあ一般家庭の子」

「ふーん? でぇ?」

「対策とかなんかしたかなと思って聞いてみただけ。別に俺に真剣に相談されたとかじゃないし。ただ綾人ち冬也がなんか話してたし、もしなにかよさげなこと知ってたらいいなと」

「んー……」

 警察は実害が出ないと動いてくれないが、それが今回被害者が男だったから……なのかどうかはやや曖昧だ。
 かといって女の子なら対応が変わるかというとそんなこともないような気がする。

 結局警察に教えてもらったのは、カーテン閉めたり、鍵開ける前に背後確認したり、ダブルロックにしたりというネットでも見つけられそうな知識ばっかりだった。

 難しい話でね、といった警察を思い出す。

 付きまとい事態は厳重注意の対象として認めてもいいが、それを断定するのは難しいとか、ストーカーによる実害というとなんか、もう、どうしようもないそうなのだ。

 ポストになんか入ってる、無言電話、切りつけられる……いろいろあるけど、それを「実害と呼んでもいいものか」というジャッジはすごく主観的で頼りにならない。

「まあ、鍵の話とかはしたからそういうの? あと、相談して動いてくれるかはわかんないけど……」

「いやいいって! 実際被害受けててこんなんはやったらしいよって気休めにはなるだろ」

「女子だと違うかもだから話半分でな」

「わーってるって」

 女の子のストーカー被害、聞いている様子だと一人暮らしのようだし冬也より怖い思いしてる気がする。
 俺も嫌だな、ポストにべたべたした何かとか入ってたらその場ですげえ悲鳴あげそう。

「……まあこんなとこ」

「サンキュー! つうか冬也も大変だよな。そういや那由ちゃんがストーカーされたのもここ3カ月くらいって言ってたわ。偶然すげー」

「なゆちゃん?」

「ああ、篠宮那由っていうんだよ。普段は那由ちゃんって呼んでてさ。まあうちのバイトみんな名前だけど」

「へえ」

 なゆ、という名前に心当たりがないわけじゃない。
 ただそれを今は考える必要もないな、と頭の片隅に適当に振り払った。