「ストーカー?」
「そう。ここ3カ月くらいかなあ」
「早く言えそういうのは」
冬也が気だるげにそう言った。こいつは顔がそれなりなため中学時代からよくモテたので、女の子に付きまとわれるのにも慣れている……と思ってたかをくくっていたんだろう。さすがにストーカーは初めてだと思う。少なくとも俺が知っている限りでは。
「心当たりは?」
「ある。3人くらい」
「3!? 多いだろ、なにそれ」
「ちょっと遊ぼうかな~~なーんて思った時期があってぇ……」
冬也が言うSNSには俺も心当たりがあった。いわゆるマッチングアプリというそれである。
冬也が使っていたというそれは特に“ヤリモクしかいない”というイメージがかなり強いやつだ。
もちろん公式が大っぴらにそんなこと言ってるわけじゃないにせよ、他の競合と比べてどうしても遊んでいる若いやつが多いのはこれだろう……みたいな。
冬也の言い分は大体わかった。3カ月より前に「向こうもそうだろうから」という勝手な前提で遊んだ子が3人はいるってわけだ。
「変なことしてないよな、殴ったとか同意ないとか避妊してないとか」
「さすがにそこまではしないって! そんなクズじゃないわ! ただ付き合ったり、セフレって定期的に会うとかめんどくさいから基本一回ねって最初に言ってるし」
「充分ゴミクズ野郎だけどな」
冬也に彼女ができたのが3カ月前、ってことだから彼女の存在を知って本格的にストーカー化した可能性も否めない、のだろう。
あいにく俺はストーカーの心理なんてわかりようもないがトリガーとしてあり得そうなことを考えて口にした。
本来こういう場合、好きな人の付き合ってる相手、はどういう扱いなんだろう?
一昔前にネトゲで知り合った女が「お兄ちゃんどいて! そいつ殺せない!」とかって男のとこに押し掛けた事件があった気がするが。
「そういや俺まだ彼女の話もよく知らないんだけど、そっちは大丈夫なん?」
「ああ、うん。彼女のほうはなんともない。俺ががっちり見てんだからだいじょーぶだいじょーぶ」
「ならいいけど、つかそろそろ写真見せろよ」
「撮らせてくれねーんだってぇ……」
まあ3カ月程度だといつ別れるかもわかんないよな、と過去の冬也の彼女たちを思い浮かべる。
中学……はさておいて、高校の時だって半年付き合ってた子が確か一番長かった。大学入ってからは1年の時に付き合った子が8カ月くらいだった。
もう3年生になるけどそれ以降特定の恋人の影もなかったので、まあそろそろ落ち着いて恋愛してくれてもいいんじゃないかなと思うことにする。
さすがに腐れ縁の女性関係でこれ以上呆れたくない。
「綾人の彼女は? もう1年くらいになる?」
「あーそうだな、そんなもんかな」
「お前も写真とか見せてくれねーじゃん、載せないし」
「デジタルタトゥーって知ってるか? 俺は見せないんじゃなくて見せたくないの」
「かーっ惚気かよ、うぜー」
「そんなことより、冬也のストーカーのほうだろ。で、心当たりってなによ」
「ああ……いや3人っつったけど、有力候補って意味では1人なんだよ。信じてもらえるか怪しいんだけどじつは配信者なんだよな。それも……」