「真面目な話、最初まじできもいなこいつって思ったよ」

「けど結果オーライだったろ、そこ敵、右の割った」

 声色もトーンもまったく変えないで、ががががが、と画面上に現れた敵に弾丸を打ち込む綾人はやっぱサイコパスなんじゃないのかなと思う。ゲームだけなら長所というかまあ頼りになるんだけどそれが現実世界でもそんな使われ方してるのかと思うとこいつに好かれている人が心底可哀想だと思った。

「というか、よく思いつくよねこんなの。私には無理。薬ほしい」

「そこ置いた。実行できる環境とタイミングがあったからそうしただけ。第一、俺と知り合ったときまだ「あまなつ」じゃなかったじゃん」

 それはまあそうか、と思う。

 綾人と知り合ったのはたまたまだ。
 Twitterのメンバー募集にたまたまいた綾人はソロなのにランクがやたら高かった。

 他にも声掛けてた人は居たし、女は私だけじゃ無かったけどその時チームを組めたのが私だっただけ。綾人に言わすと「メッセアプリのあみだくじ機能」だったそうだけど。

「篠宮那由に関しては嬉しい誤算って感じなんだよ、まああまなつはいい迷惑だっただろうけどさ」

「ふつーーーーにおっかなかった、まさか女の子とは思わんよねー」

 綾人と私は友達だ。ゲーム友達。今回も利用されたというよりお願いされただけ。ちょうど良かったから聞いただけ。win-winだった。



 綾人と友達になって、配信するようになって、リスナーがついた。だからそもそものきっかけは「篠宮那由」って女の子だ。

 最初は普通のリスナーでファンだった彼女がいつからか「信者」になっていった。私は大したことを話したつもりはまっっったくないので心当たりはないけど、他の配信仲間に聞いてもそういうのはよくある話らしいので考えるだけ無駄なんだと思う。

 最近こういうことあってさ、と綾人に相談したら真摯に聞いてくれたし色々調べてくれた。匿名掲示板に書いてみた話も聞いた。なんでスレっていうのはスミカッコでタイトルを囲うのか不思議だなーと思ったのを覚えている。

 それから、私はお金があったから、興信所に駆け込んで彼女のことを逆に調べて、証拠を揃えてさあ警察だと思った矢先に綾人に頼まれた。

 そのストーカーを「使いたい」。

 綾人がどこまで仕組んで誘導したのかは知らない。けどマッチングアプリで冬也くんと会ってホテルには行った。そういう雰囲気、にはなったけど変な薬なんか使わなくてもお酒で潰せたし、朝起きて隣に寝てれば「そういうことをした」と思うのは自明。

 あとは匂わせ程度に「好きな人」の話をして、篠宮那由の動きを煽ればよかった。なにを思ってどう接触に至ったかは知らないし興味もない。

 それから、メッセージアプリのアカウントを別に作ってストーカーの真似事をして冬也くんに粘着する。

 同時に私はストーカー被害を受けてるんだとSNSに書き込めば勝手にニュースになる。
 バズらせるのもウェブ記事にするのも、登録者数が増えればそう難しくもない。

 綾人の友達が、綾人に「バイト先の子が」と話したのだけは想定外だったみたいだけど、それを理由に篠宮那由について調べたってことが言えるのはラッキーだよね、と綾人は言っていた。

 頭おかしい、ほんとに。

 あとはもう、那由ちゃんとは弁護士はさんで示談。冬也くんへのストーカ行為もそれを機にやめた。別に好きなやつでもできたんじゃないのか、とか適当に綾人が誘導してる。

「好きな人のためにそこまでする? 下手したら綾人もあれよ、えーと、そそのかした罪」

「教唆のこと? まあ、けど言うじゃん。恋は盲目」

 男同士、というのの壁は正直わかんない。否定はしないけど理解はできてない。

 ただあれもこれも全部綾人が裏でなにかやってるんだって、そう思うだけで多少の現実の不都合からはもう少し目を逸らして居られるような気がしている。