「これお前だよな、冬也」

「…………」

 あまなつのファンのことを「みかん」「みかんちゃん」と呼ぶらしい。
 YもVも関係なく登録者数50万も居ればファンもアンチも相当数いるのでたぬきでスレが立つのもあれるのも想像に難くないし、実際あまなつのスレで定期的に炎上する奴は何人か存在した。

 厄介オタク、とか古参勢とかいうそいつらだ。

 その中でひときわ「やべえ」のがなあ@みかんちゃんとかいう女の信者だった。

 一応アカウントは複数あるようだけど特定班にしてみれば探すのも大した手間じゃなかったらしい。

 本アカ、に該当するそれはネットリテラシーもがばがばで大学も名前も写真もがっつり載っていた。


 @naaa_yutann_ なゆ 川女2E♡ばいと戦士


 川女、は都内じゃ有名な私立女子大だ。津田塾や東京女子ほどじゃないにしてもお嬢様学校で通っているから大学生の間では彼女にしたい学校の子、みたいなふざけた話題に上ることも珍しくない。

 たぬき自体はよくあるもんだ。
 俺は冬也のストーカー相談に関していろいろ調べていて、そもそもあまなつってなんで流行ったのかを調べていたら実家のような慣れ親しんだスレの関連にたぬきがあがってきた。

 悪口っていうのは真理なのでもしかしたら過去にそういう事例があるかもしれないとそこを見た。

 そしたらまさか古参たたきがメインで、その古参はあまなつにストーカーのようなことを繰り返していて、身元が割れてて、その子の正体が「バ先の女の子」で、さらにその子がストーカー被害者……しかも加害者が友人だなんて誰が予想するだろう。
 事実は小説より……という言葉を嚙み締めた。


 ばれた理由自体はシンプルだ。本アカにあった「バイト先の人たちとカラオケ」という呟きの画像。加工もされていなかったそれにばっちり相談してきたあいつが陽気にピースをしていた。
 ああ、これが「篠宮那由」だ。

 「で、この子がメッセのスクショ上げてた。ストーカーからのメッセシリーズって」

 不思議なことに冬也は篠宮那由の本アカは把握していなかったらしく表情が抜け落ちていた。
 まあ、特定班みたいなのは変態の特殊技能なのでストーカーしてたとて全部が全部は拾えないのかもしれない。

「あまなつと寝て、付きまとわれて、それを見た篠宮那由がお前を調べ上げた。調べた結果お前はお前で篠宮那由に付きまとって……よく俺にストーカーの話したな」

「違うって! 俺は、俺は那由ちゃんとほんとに付き合ってんだよ!」

「相手はそう思ってない。なあ、冬也、お前のやってんのはあまなつと同じだよ、きっぱりやめろ前科つくまえに」

「俺は、俺はほんとに……」

「仮にそうだとして、こいつに利用されただけだ。お前があまなつに好かれてたから」

「……っ、あの子は、そんな子じゃ」

 冬也が本当に篠宮那由と付き合っていたか、というのはもう本人の主張でしか確認できない。俺は冬也を信じてやりたいので、かけられる言葉は篠宮那由に利用されてたとそれに尽きるけど。

「あまなつのことをどうするかは引き続き考えよう、けどまずお前のことだよ、な?」

「う、ぐ……綾人……」

「大丈夫だって。俺は冬也の味方だよ、冬也が言うことを信じるし、ダメならダメって言う」

 友達だからな、と冬也の肩を叩くと少しだけ冬也の目の光が戻ったような気がした。