子游(しゆう)に仙女さま出現ポイントを教えてもらい、子宇(しう)をお供に連れて向かってみれば、確かにそこでは「あるある」な光景が繰り広げられていた。
「ああ。息をするのが楽になりました! ありがとうございます、ありがとうございます!」
「曲がった足が治ったぞっ。さすがは仙女さま、ありがたや、ありがたや」
「仙女さま! うちの子どもの熱が下がらなくて、助けてくださいっ」
もみ手すり手でありがたがる人々の真ん中で、白い衣の少女が今また、年若い女性に抱えられた幼児の額に繊手(せんしゅ)をかざしていた。
「子宇、どう?」
「いえ。私には何も」
私に付き合って幼少の頃から修練に励んでいた子宇は、姉上たちよりは気功の心得があるものの仙女さまの発する〈気〉は見えないようだ。
私の目にはぼんやりと青白い光が患者に注がれているように見える。出自はともかく、方士であることは間違いなさそうだ。
「ありがとうございます!」
子どもの顔色が良くなり、頭をペコペコ下げていた女性は、おそるおそる袖から粗末な木彫りのかんざしを出した。
「お礼はこんなものしかありませんが……」
仙女さまはそっと微笑んで鈴のような声で言った。
「わたしは何もいりません。お礼なんて気にしないでください」
それを聞いた周りの者たちがまたまたありがたがって「仙女さま」「仙女さま」とひれ伏していく。
うわあ。知らず知らず歪んでしまう口元を私はかろうじて袖で隠した。
そりゃそうだ。仙女サマの本心は「けっ、そんな汚いもん受け取れるか。それに一度でもこんなゴミを受け取ってしまったら、コイツらみーんなゴミを贈って寄越して満足するようになるんでしょ、冗談じゃない」だろうに。
それをまあ、あたかも慈しみ深い女神のような態度で拒否るなんて大したタマだ。
淑華(しゅくか)姉上の迫力ある美貌や芝嫣(しえん)姉さまの愛らしさとは種類が違う、楚々とした嫋(たお)やかな美しさの少女を前に、私の嫌悪感は一気にマックスに跳ね上がっていた。
コイツ嫌いコイツ嫌いコイツ嫌いコイツ嫌い。私は、こういう女が大嫌い。
患者がいなくなったのか、段々と仙女サマを取り囲む人々がばらけていく。まだ数人がひれ伏したまま去り難そうにしていたが、仙女サマは彼らに声をかけてから自分も立ち去る気配を見せた。
私は素早く仙女サマに近づき声をかけた。
「ずいぶん善人ぶった真似をなさるのね」
ぴくっと肩を震わせ、ゆっくりと仙女サマが振り返る。
「どういう意味でしょうか?」
「あなたは表向きの態度と内面とが違う。私はそういうのがわかるの」
まあ、と目を細めて仙女サマは余裕の表情で微笑んだ。
「それはすごいです。でも、わたしに限っては的外れなご指摘です」
「ほら、そういうところ」
私はくっと口角を上げ、じっと仙女サマを凝視した。
「受け入れはするけど、でも自分は違う、特別だから、とかわすところ。いったい何様なの?」
真っ向から私の視線を受けとめ、目をそらさないまま仙女サマはゆったりと腰を屈めた。
「初対面だと思いますが、どちらのお嬢様でしょうか?」
「そっちが先に名乗りなさいな」
傲然と見下してやると、一瞬だけ仙女サマの口元が引きつった。
「……失礼しました。わたしは清蓉(せいよう)と申します」