【本編】



「皆、無事で何よりだ」
「ちょっと、この姿を見て無事ってなに?」
「おまえはいつもそんな感じだろ、(すず)
「ひっどーい! 空也(くうや)ひどい!」
「鬼、天狗。うるさい」
「ちょっと理玖(りく)! 私には鈴って名前あるんだけど!?」
「ちなみに俺は空也だ」
「知ってる」

 理玖はあっさりとした返事をする。

「ねえ聞いたぁ空也? だからジメジメよーこはモテないんだよね〜」
「ジメジメって……」
「黙れ鈴」
「なんだ妖狐。やんのか?」

 とても三妖帝とは思えない会話だ。
 これでも三人とも強い力を持っている。
 ……会話はアホっぽいが。

「てか、聞いてよ聞いてよ!」
「おまえが三妖帝の娘って嘘をついたのは知ってるし、その時信じた笹潟の次期当主の顔も知っている」
「は!? なんで知ってんの!? てかどうして言おうとしたことわかるの!?」
「おまえは単純馬鹿だからな」
「き〜〜っ、ムカつく!!」

 鈴は地団駄を踏む。

「どうどう。落ち着け鈴」
「空也もなんか言ってよ!! こんっっのジメジメ妖狐!」
「なんとでも言え」
「抑えろ鈴。あっ、こら暴れるな」

 三妖帝は三種族の長によって構成される。
 圧倒的な戦闘能力と破壊力を持つ鬼。
 幻術を得意とする策士の妖狐。
 空を舞い、風を操る天狗。
 それらを束ねるのがこの三人……

 夜叉・鈴
 幻王・理玖
 山神・空也

 二つ名を持つ、最強のあやかしだ。

「話を戻すぞー。結局どうするんだ? あのお方のためには時都藍の異能は必須。だが式神は神子だし笹潟などの五大名家がバックについてる。一筋縄じゃいかないぞ」
「我らが直々に動くだけだ」
「え!? 妖狐本気? 私たちが暴れたら国が滅びるよ!」
「正面から戦うわけないだろ。少しは頭を使え」
「はぁ!?」
「鈴落ち着け。理玖は言葉遣い気をつけろ」

 鬼と妖狐は相性が悪い。
 根本的な考えが違うのだ。
 そこをなだめるのが天狗だ。
 三人はこうして関係を保っている。
 鈴は興味なさそうに言った。

「……で、どーゆー考えなんですかー?」
「時都藍の弱点を利用する」
「あー、けどいけるか? 結構難度高めだな?」
「おびき寄せるだけだ。うまくいけば妖狩りも引っかかる」
「妖狩りうざい!」
「俺の立場も考えてくれないお二人さん」
「情でも移ったのか?」
「そうじゃないけどさ……くるうじゃん」
「わかるー。天宮で教師してる時、三妖帝だってバラしそうになった」
「それはおまえが馬鹿だからだろ」
「はああああっ!? もう我慢できない! ぶっ殺してやる!!」

 鈴は理玖の胸ぐらを掴み、理玖は鈴を静かに見つめる。

「やめろ鈴! 鈴が暴れるとここが全壊しかねな……って理玖! 応戦するんじゃない! ああもうっ、二人ともちょっとは頭冷やせ〜〜っ!!」

 こうして三妖帝の会議は鈴と理玖によって拠点を半壊して終わった。
 なお、喧嘩は空也が仲裁して個別にお叱りを受けた。
 鈴と理玖はしばらく口を聞かなかったと言う。