「あれ……もう、朝?」

 障子から差し込む陽光によって私は目覚めた。案外布団に入れば寝れるものである。

 笹潟(ささがた)家の布団が柔らかすぎるせいでは、とも私は思ったが、心地よい目覚めだったのでこれ以上考えないこととした。

 布団の隣には、綺麗に洗われアイロンされた私の制服が置いてあった。昨日は少ししか着ていなかったので、そこまでしなくてもいいのに、と思いつつも、嬉しい気持ちでいっぱいだった。

 私は制服に着替え、身だしなみを整えると、架瑚(かこ)さま達のもとへ行くことにした。

 どこにいるかは知らなかったが、歩けばこのお屋敷で働いている人と会えるだろうと思い、私は部屋の障子を開けた。

 するとーー

「架瑚さまっ!?」

 架瑚さまが外の廊下に座って寝ていた。一体いつからここにいたのだろうか。

 私はそっと架瑚さまに近づき、観察した。

 艶のある真っ直ぐに伸びた漆黒の髪、男性とは思えないまつ毛、綺麗な肌。そしてそんな女の子のように綺麗なお顔とは真逆な鍛えられた体。

(なんだかドキドキしてきた……)

 私は何故か架瑚さまへと手を伸ばした。触れてみたい、と思ったからだ。けれど触れる直前に、架瑚さまが起きてしまった。

「……ん、あい、る」

 私はすぐに架瑚さまから離れた。

(私、何やってるんだろう……)

 ものすごい羞恥心に襲われ、私は我に返った。すると、架瑚さまに話しかけられた。

「ん、(あいる)……」
「は、はいっ!」

 何を言われるのだろうと、構えていると、架瑚さまから言われたのは、拍子抜けする言葉だった。

「おはよう」
「……おはよう、ございます」
(わざわざそれを言うために!?)

 そう思いつつも、私はすごく嬉しかった。おはようだなんて、最近は夕莉(ゆうり)以外の人から言われたことがなかったからだ。

「あの、架瑚さま」
「ん?」
「なんで廊下にいたんですか?」

 私は率直な質問を、架瑚さまに投げかけた。

「だって藍、迷子になっちゃうでしょ?」
(……はい、おっしゃる通りです)

 どうやら架瑚さまは私のためにいたらしい。なんだか少し恥ずかしいけど、私はすごく嬉しい気持ちでいっぱいになった。

「ありがとうございます」
「……いいよ、別に」

 架瑚さまは照れているのか、顔が少し赤い。

 男性に対して使う言葉ではないかもしれないが、私はそんなところが可愛いなと思ってしまった。



「か、架瑚さま!なんで車の中にいるんですか!?」

 そして、てっきりどこかの部屋に行くものだと思っていたが、まさかの車に乗ることとなった。

 そこには夕夜さまも綟さまもいた。

「おはようございます、藍様」
「あ、おはようございます。(れい)さま、夕夜(ゆうや)さま」
「早く乗れ、時都(ときと)(いもうと)
(……早く乗れ?)

 意味がわからず、私は尋ねた。

「え、えぇっと、どこに行くのですか?」

 すると二人とも顔を見合わせ、ため息をついた。私は自分が何かしてしまったのだろうかと、ハラハラした。

 けれど、二人がため息をついたのは私ではなく、架瑚さまに対してだったようだ。

「若、藍様が不憫です。言葉が足りません」
「同感。架瑚、婚約者ぐらい大切にしろ。いつか嫌われるぞ」
「大丈夫だ。俺は何があっても藍への想いは変わらない」
「ちょっと架瑚さまっ!?」

 何を言い出したのかと思えば、惚気話だ。私は全力で阻止した。それを見ていた綟さまが、私に問いかけた。

「話が脱線していますし、いつまで経っても若が言わないので私が言いますよ? ーー藍様、制服を着ておいて、学校は行かないのですか」
「……あぁっ!」

 完全に忘れていた。オロオロする私に、架瑚さまは教えてくれた。

「だから車で行くために今乗っているんだ。襲撃されたら困るからな。あ、そうそう。鞄も乗せてあるから安心してね」
(待って、全くもって安心できない!襲撃されたら困るって……どういうことなの!?)

 だが、私の気持ちは伝わらなかったようだ。

「あぁ、朝ごはん食べてないよね。……綟」
「こちらに」
「ん、どうも」

 綟さまが取り出したのは、色とりどりの美味しそうなサンドイッチだった。

 レタス、トマト、たまご、ベーコン、チーズ、玉ねぎなどと具沢山で、それはそれは食欲をそそる物だった。

「こ、これ、食べていいんですか」

 恐る恐る質問した私に、綟さまは

「もちろんです。たくさん食べてくださいね」

 と言ってくれた。私は遠慮なくいただいた。

(お、美味しい……!)

 今まで食べた中で最も美味しいものと言っても過言ではない、最高のサンドイッチだった。

「美味しいですか?」
「はい!とても美味しいです!」
「それはよかった。朝、頑張って作った甲斐があるというものですね」
「綟さまが作ったのですか!?」
「ええ、私、料理が趣味なので」

 私の好物が綟さまの作る料理へと変わったのはこの時であった。



(忘れてた……)

 車から降りた目の前に広がる光景に、私は絶望した。

「きゃあああぁぁぁぁぁ!笹潟様よ!」
「かっこいい!イケメン!生きてて良かった!」
「てか、隣の子だれ?ーーまさか、婚約者!?」
「ファーストでも、セカンドでもあんな子いなかったはずよ!……まさかサード!?」
「ありえない!許せない!死んでも殺す!」

 どの学校にも、熱狂的な贔屓(ファン)がいる。私の通う学校の場合は、架瑚さまが偶像(アイドル)なのである。つまり、その偶像と一緒にいる脇役的存在である私は、当然敵視されることとなる。

(分かっていたはずなのに……)

 これ以上の反感を買わないよう、私は言動に気をつけようと意識した。しかしーー。

「じゃあ藍、また放課後になったら迎えに行くから」
「え、だ、大丈夫ですよ架瑚さま」

 本当にこれ以上は私の命が危ない。精神的にも、物理的にもだ。

 なのにーー

「架瑚さま? ……〜〜っ!」

 架瑚さまは私に近づき、口付けを施した。私も周りも唖然とする。

「な、なんでキスするんですか!?」

 私は架瑚さまに問いただす。

「ん、藍が寂しそうだったから」
「全然寂しくなんかっ……ありま、せん」

 私は架瑚さまと離れたくないと思っただけだ。けれど、それが寂しい、という気持ちなのだろうか。

 架瑚さまはそれを悟ったのか、今度は抱きつかれた。

「ふぇっ!? ちょっ、架瑚っ、さまっ! なんでそんなことするんですか!?」
「マーキング。他の男に取られないように」
「まー……きんぐ?」

 すると満足したのか、架瑚さまは私から離れて車へと戻っていった。

 そしてーー

「いってらっしゃい」
「! はい、いってきます!」

 そう挨拶を交わして、私は学校へと歩み始めた。そしてすぐに架瑚さまの贔屓に捕まったのでした。


 ✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎


「架瑚、行くぞ」
「あぁ」

 夕夜のその言葉に従い、俺は車の中へと入り、ドアを閉めた。すると、予想通り夕夜からのお小言が始まった。

「はぁ、まったく……朝からイチャコラするな!」

 そう言われても困る。俺は耳の穴を塞ぎながら夕夜のお小言を軽く流す。仕方ないことだと思う。藍が可愛すぎるのだから。

「少しは俺らの気持ちも考えろ! 見てるこっちが恥ずかしいわ!」

 俺は恥ずかしくないのだが、そう言うと夕夜はどんどんうるさくなってくるので、あえて言わない。

 しかし、「そうか」と興味のなさそうに言うとーー。

「そうかじゃなえぇぇぇぇ!」

 今度は叫び始めた。どう答えればよかったのだろうか。やはり血が繋がっていても、所詮は他人。考えが違うのは当たり前というところだろうか。

 すると、綟が仲裁に入った。

「まあまあ、落ち着いてください夕夜」
「落ち着けるわけないだろっ!てか、なんで俺なんだよ!架瑚の方が圧倒的に悪いだろ!?」

 俺は悪くないと言おうとしたがーー

「それは肯定します」

 と、綟が夕夜の味方になってしまったので、反撃は諦めることにした。綟には口喧嘩で勝てないからだ。

 俺の意思を悟ったのか、綟は話題を変えた。

「若、頼まれていた通り、手筈は済んでおります」
「ありがとう綟。それ終わったら、行きたいところがあるんだけど、予定空いてる?」
「今日は雑務処理のみとなっておりますので、若が頑張ってくだされば空けられますよ。……どこへ行くつもりですか?」
「時都家だ」

 俺はぐっぐっと肩を伸ばし、青い空を見つめた。


 ✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎


「つ、疲れたぁ〜」

 私はやっと架瑚さまの贔屓による質問という名の拷問を終え、夕莉のもとへとやってきた。

 現時刻は四時。この学校ではもう放課後で、部活や勉強に励む時間である。

 私はというと、部活に所属していないのでいつもは図書館で勉強する。

 だが、今日は夕莉と一緒に過ごすことにした。今は勉強する気力すらない。それほどに拷問は長く疲れたのだ。

「お疲れ様。で? 当主様とはどういう関係なの?」
「やっぱりその話題だよねぇ」

 ため息をつき、項垂れ、話し始めた。

「婚約者になった……って言ったら夕莉は信じる?」

 ちなみに贔屓たちは信じず、結局愛人と誤解されて終わった。

「! そっかぁ〜。安心して、私は信じるよ」
「夕莉……!」
(やっと、信じてもらえる人がいた……!)

 私は安堵の表情を浮かべた。

「まぁ、薄々感じてはいたけどね」
「え、なんで?」
「いや、だって大勢の前でキスするなんて、婚約発表してるようなもんだよ? それに、架瑚兄《にい》は藍にご執心のようだったからさ。見ていてちょっと引くぐらい、溺愛してたし」
(……え、架瑚兄?)

 夕莉の口から、そんな言葉が出てきた気がするのは、私の気のせいだろうか。一応確かめるべく、私は夕莉に質問した。

「ちょっと待って夕莉、どういうこと?」
「ん? ……あぁ、そう言えば架瑚兄、今日発表してたよ」
「発表?」

 架瑚さまのことを架瑚兄と言ったことも気になるが、夕莉の言う発表も気になる。

「ほら、これ見て」
「?」

 私は夕莉に端末を渡され、光る画面を覗く。

(あ、架瑚さまだ)

 そこには架瑚さま、綟さま、夕夜さまが映っていた。次期当主としての架瑚さまを見たのはこれが初めてかもしれない。

 何なのだろうか、と思っているとーー

『笹潟家次期当主、笹潟架瑚は時都藍を婚約者にすることが正式に決まりました』
「え、え、ええぇーー!」

 まさかの発表に、私は驚きを隠せない。

(え、いや、たしかに私は架瑚さまの婚約者になったけど、あれ、正式なの? 本家の当主様たちにもまだ、私会ってないよ?)

 バンッ!
「「!」」

 だけど、その疑問を解消する前に、突然教室のドアが開き、廊下から見知らぬ人たちが出てきた。

 制服についているバッチはA。それは特進のAクラスを表している。しかも、複数。

 まさかーー。

「時都藍、よね? (あかね)様が呼んでいるわ」

 当たりだ。

 この人たちは、茜の取り巻きの人たちだ。

 茜はAクラスの中でもトップの成績を誇っている。そのため皆が集まり、蝶よ花よと愛でるため、自然に茜はクラスの女王様となるのだ。

 もしこの要望に従わなかった場合、私は間違いなくいじめの対象となるのだろう。本当は行きたくないが、私は要望に応じることにした。

「……わかり、ました」
「藍!」

 それに夕莉は反対した。私と茜の関係を知っており、友達思いだからだろう。

 すごく嬉しかったけど、最悪夕莉まで巻き込まれてしまうかもしれない。それは一番私が避けたいことなのだ。

「大丈夫だよ夕莉。大丈夫、大丈夫だから……」
「藍……」

 夕莉は前に私のためにこの人たちに手をあげたことがある。そして、一週間の謹慎処分が下された。

 次同じことがあれば、退学処分となることが確定している。

「ごめん藍、ごめん……」
「ううん、ありがとう夕莉」

 そう言って、私は茜のもとへと向かった。

 夕莉は一人になった教室で、こう小さく呟いた。

「今の私ができるのは……」

 そして急いで教室から出ていった。



「遅かったわね」

 茜と取り巻きの子は今は使われていない空き教室にいた。茜は本を読んでいたらしい。机上に何冊か本が置いてあった。

「ごめんなさい」
 パンッ!

 私は謝るも、茜に叩かれ、転倒した。叩かれたのは一昨日と同じ、頬だった。

 治癒魔法(フィールアイリス)をかけることはできるが、そうすればまた、茜や取り巻きの子たちから、もっと酷いことをされるに違いない。

 何もせず、謝るのが賢明だと私は判断した。

「……私の時間を無駄にしないでって、何度も言ったわよね?記憶にないのかしら?」

 ある。だが、仕方ないではないか。茜の取り巻きたちがわざとゆっくり歩いて、到着に時間がかかったのだから。

 けれど、そんなことを言っても茜は信じないだろう。私は黙秘を続けた。

「まぁいいわ。本題に入りましょう。……なんであんたが笹潟様と一緒にいるわけ?」

 さすがに態度には出さなかったが、私は盛大なため息をついた。何度言えば周知されるのだろうか。

 贔屓の中には茜の取り巻きも複数いたはずだ。情報もいくつか入っているはずなのに、わざわざ私に聞くということは、いじめたいか、事実を確かめたい、というところだろうか。

 私は偽りなく答えた。

「私が架瑚さまの婚約者だからです」
「……もう一度、言いなさい」

 聞こえているはずなのに聞き返すということは、信じられないからなのだろう。

 私は同じことをもう一度言った。

「私が架瑚さまの婚約者だからです」
「そんなこと、あるわけないでしょっ!」

 そう言うと、茜に叩く、蹴るなどの暴行を受けた。とても痛いが、毎日行われるとだんだん痛みに慣れてくる。もちろん痛いものは痛いが。

(今日はいつもより長いなぁ……)

 なんてことを考えられるほど、この行為はずっとされてきた。いつもより長いと感じるのも、長年の経験からだ。

 今日は怒りが抑えきれないからだろう。

 やがて茜の動きが止まった。だが、手足の動きだけであった。

「ふざけないで! もし本当にそうなら、許さないわよ! あんたが幸せになるなんて、私は認めないんだから!」

 その言葉を聞き、私は一つ、茜に質問することにした。

「なんで……」
「なに?」
「なんで茜は、私に強く当たるの?」
「はぁ? あんたが厄女だからに決まってるじゃない」
(厄女、か……)

 じゃあ私が厄女じゃなければ、茜は強く当たらなかったのだろうか。

「厄女、厄女って……私は茜に何かした? 何もしてないよね?」

 つい感情的になり、言葉遣いが乱れた。

「一対複数なんて、卑怯だとは思わないの? 暴力を受けて、痛くないとでも思ったの? いっつも苦しくて、悲しくて、でも我慢してきた私に、何とも思わないの?」
(ずっと、苦しいんだよ)

 架瑚さまと少しだけ一緒にいて、私はわかってしまった。

 ずっと、苦しかったってことが。

(まだ私は、茜と、昔のように笑い合いたい。遊びたい。話したい。でも、それはもう叶わないことなのかな?)

 私は、まだ茜のことが、好きだ。

 あの頃のように、優しい茜が戻ってくると信じて、ずっと待っている。

「私は馬鹿だから、厄女だから、つい小さな希望に夢を見るんだ」

 私たちは、また昔のような関係に、戻らないのだろうか。

「ねぇ、茜」

 私はやっぱり馬鹿だ。

「私は、茜と」

 幸せになれると、思ってる。

「もう一度、仲良くなりたい」

 だけどーー

「あんたのせいで、母様からの圧はどんどん重くなってる! あんたは私の自由を奪ってる! そんなあんたと私が仲良く? 大概にして! あんたなんか、あんたなんか……」

 茜は、そう思っていなかった。

「藍なんか、大っ嫌いよっ!」
(…………)

 茜に対する母さまの圧はだんだんと重くなっている。

 母さまから昔、茜に厳しくする理由を聞かされたことがある。

 母さまが私を産んでしまったから、だそうだ。

 私はその母さまの言葉を聞いた時、最初は何を言っているのかよくわからなかった。だけど時が経つにつれて少しずつわかってきた。

 私が生まれなければよかったのだ、と。

 仲が良かった茜との関係がギクシャクし始めたのは、魔力値を計測しにいった日の頃からだった。

「にしても、こんなあんたなのに愛人にした笹潟様は見る目がないのね。容姿も魔力も私未満だと言うのに」
「…………」

 その言葉によって、私は怒りという名の感情が沸々と湧き上がってきた。自分が(けな)されたからではない。架瑚さまを馬鹿にしたからだ。

「そんな笹潟様を止めもしない従者たちに頭のネジが外れている友達と、あんたは人間関係にも恵まれてないのね」
「……やまって」
「?」

 夕夜さまも、綟さまも、夕莉までも、なんで勝手に恵まれていないと茜は決めつけるのだろうか。

 みんな優しくて、居心地が良くて、ずっと一緒にいたいと思える、私の大切な人たちだ。何も知らないのに、知ったように言われたくない。

 いくら茜でも、許せない。

「あやまって、謝って!」
「なっ!」

 茜はたじろぎ、一歩後ろへと下がった。

「私のことは好きに言えばいい! でも、私の大切な人たちは馬鹿にしないで!」

 そこまで言うと、私はやっと落ち着けた。言いたいことを言えたのは、これが初めてかもしれない。

 するとーー

「好きに言えばいい、ね……。そう、なら遠慮なく言わせてもらうわ!」

 その時の茜の言葉は、すべて正しかった。

「あんたは誰にも必要とされていない! なんにも持ってない! なんの価値もない! むしろ、迷惑をかけてばかり! なのに今、あんたは幸せに生きてるなんて、烏滸(おこ)がましい! 図々しい! それに、ずるいわよ!」

 最後の言葉は、茜の本心だったのかもしれない。

 ずるいと思うのは、今の茜の生活が充実しておらず、小さな箱に入れられているように、狭くて苦しい思いをしているからなのだろう。

 私もずっと苦しかった。悲しかった。辛かった。

 茜とはまた少し違う環境にあったけど、きっと気持ちは同じだったのだろう。やっぱり私たちは双子で、似た者同士だ。

 だけど、鏡に映る自分を見ているようでも、心は違う。

 茜と私は矛盾しているかもしれないが、似ていて似ていないのだ。

 そんなことを考えていると、茜はこんなことを言った。

「……あなたたち、藍に『お仕置き』しなさい」
「承知いたしました、茜様」
「っ!」

 『お仕置き』とは、茜の取り巻きたちが一斉に蹴ったり殴ったりすることである。茜曰く、調教らしい。私はこれが、一番嫌いで、一番嫌な行動だった。

「〜〜っ!」

 全身を蹴られ殴られ、私は声にならない程の痛みを味わった。茜から叩かれるより、何倍、何十倍と痛い。

(誰か、助けて……!)

 グッと目を瞑り、歯を食いしばった。そしてその時、私の脳裏に浮かんだのはーー。

「おいっ!」

 すると突然、ガンッ!と大きな音を立てて、教室の扉が開き、誰かが廊下から出てきた。その声に、私は聞き覚えがあった。

 そして、待ち侘びた救世主はーー

「大丈夫か、時都妹!」
「藍っ!」

 夕夜さまと、夕莉だった。