【本編】



 それは、七年前のことだった。

白椿(しらつばき)の者だな」
「っ!」

 五大名家(ごだいめいけ)の一つ、白椿家に侵入者が現れた。

 五大名家というのは、国の中でもトップクラスの発言力と権力、そして高い魔力値のファーストの子を輩出する五つの名家のこと。
 そんな五大名家は時に恨み、妬みを買うこともあった。
 だからこそ幼い頃から要警護されて過ごしていた。
 なのにーー

「きゃああぁっ!」
誠実(せいじ)様! 遥香(はるか)様! 依世(いよ)様!」

 その事件ーーのちに『白椿誘拐事件』と呼ばれる大事件で白椿の三人の子供が誘拐された。
 まだ当時、長男は13歳、長女は12歳、次女は10歳だった。

「依世」
「せめてあなただけでも、生きて」

 幼い妹を逃がすため、長男と長女は異能を使って次女を逃がした。
 だが、上手くはいかなかった。

「勝手に逃げちゃダメだろ? なぁ?」
「っ! 依世は殺さないでくれ!」
「んなこと知るかっ!」
「きゃああっ! 兄さん、兄さん!」
「うるせぇ! 少しは黙っとけ!」
「っ!」

 結果、長男と長女は殺され、次女は重傷を負った。二人の異能があったこともあり、次女は一命は取り留めていた。

「ーー…………こ、こは……?」
「! 依世様!」
「っにい、さんは? ねえ、さんは?」
「っ誠実様と遥香様は…………」

 その言葉で、依世は最愛の兄と姉を失ったことを知った。





 誰もが驚き、悲しみに暮れたこの事件は、護衛や従者の大切さを知らしめて幕を閉じた……はずだった。
 大事件が生んだのは驚きと悲しみだけではなかったのだ。
 新たな事件の種が今、七年の時を経て成長し、花を咲かせようとしていた。