【本編】


 春の麗らかな日、四人の家族が二人の娘を連れて魔力値の計測にやってきた。

「おかあさん、おとうさん、これにふれればいいのですか?」
「ええ、そうよ。(あかね)
「あかね、あかね」
「なぁに、あいる?」

 茜と呼ばれた少女と、あいると茜に呼ばれた少女は瓜二つの顔立ちをしていた。双子なのだろう。そっくりだ。

「せーのでさわろうね」
「いいよ、わかった。せーのっ」

 茜とあいるが触れたのは魔力値を計測する透明な水晶だ。ファーストの魔力値ならば青、セカンドの魔力値ならば黄、サードの魔力値ならば赤に光る代物だ。

 周囲が好奇に瞳を染める。

 そして結果はーー。

「わっ、黄色だ! おかあさん、おとうさん、わたし、セカンドだよ!」

 茜の触れた水晶は、濃い黄色をしていた。セカンドの証拠だ。色味が強いとその分魔力値を高いことを現している。

「うん、色、濃いですね。ファーストに近いセカンドでしょう」
「まぁ! えらいわ茜、すごいわ! ……それに比べて(あいる)。あなた、どう言うつもりなのかしら」
「ど、どうして……」

 あいるは(あい)色の藍と書いて『あいる』と読むらしい。珍しい名前だ。

「あいる? ……っ! あいる、その色は」

 藍の水晶は、小さな赤い光が灯っただけだった。落ちこぼれの中のサードでも、さらに落ちこぼれということになる。

 周囲は期待して損したとでも言うかのように、藍への悪口を言って散って行った。

「藍。ほんの少しでも期待してしまった私が馬鹿だったようね。やはり所詮は厄介者の厄女。私たちに恥をかかせた罰として、今日のご飯は抜きます。いいですね」

「……はい、おかあさん」

 今にも泣きそうな藍に茜は駆け寄る。

「あいる……」
「あっ、あかっ、あかね……!」

 藍は茜に抱きつく。茜はそんな藍をよしよしと撫でた。そして大丈夫だよ、と慰めようとした時だ。

「茜」
「っおかあさん……!」

 茜と藍の母親が二人に近づいた。

「厄女のことなんて、放っておきなさい」
「でも、あいるはわたしのいもうとです」

 茜は藍をちゃんと姉として助けようとしていた。茜と藍は仲がいいのだ。姉妹愛が他者よりも深かった。

 だがそれを母親は認めなかった。

「やめてちょうだい茜。あなただけが、今後の時都家の女当主として正しく生を全うするのだから。……だからね藍。あなたは今後、茜に関わらないでちょうだい」
「おかあさん……」

 そう言って母親は茜と藍を引き剥がした。

 茜は母親に対抗しようとしたが、体格的にも無理なため、藍を申し訳なさそうに見た。

「藍。おかあさんと呼ぶのも大概にしてちょうだい。私はあなたの母親だとは思いたくもない」
「! ……ぐすっ、うぅっ、うわあぁぁん!」

 その言葉が相当傷ついたのか、藍はとうとう泣き出してしまった。

 茜はそんな藍のそばへ行こうとするが、母親に無理矢理連れて行かれてしまった。父親は藍を一瞥した後、母親が怖いのか立ち去ってしまった。

「おかあさん……! おとうさん……! あかね、あかねぇ……!」

 藍は泣き続けた。そうすれば、きっと母親も「仕方ないわね」などと言って戻ってきてくれると思ったからだ。

 だが、そんな藍の予想は簡単に裏切られた。二時間待っても、三時間待っても親は迎えにすらきてくれなかった。

 四時間経った後、藍は泣きながら家に帰った。

 母親は藍が帰ってきたことを知ると、藍を暗く狭い物置部屋に外から鍵をかけて一日中ずっと閉じ込めた。

「おかあさん、おかあさん、おかあさん!」

 そして藍は知るのだった。泣いても誰も許してくれないと。誰も助けてくれないと。厄女でありサードとなってしまった今の自分には、誰も味方がいないのだと。

「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい」

 そしていつしか藍は謝罪の言葉ばかりを口にするようになった。

 藍の自慢の姉だった茜は、ある日を境に話すことすらなくなり、冷たくなり、暴力を振るうようになった。

 こうして藍は自分を塞ぎ、卑下する日常が続いた。だが、そんな日々は六年後、ある人物によって変わるのだった。