「これ、昨日買ってきたハーブティだよ。アレルギーとか大丈夫かな?」
 「うん。」

 むしろ“好き”だ。
 カモミールの甘い香りがフワッと漂った。
 一口飲んでみるとはちみつを混ぜているのかほんのり甘く飲みやすかった。
 
 「泰にぃ……」
 「せめて二人きりの時はお兄ちゃんって呼ぶのやめてくれないかな?」
 「え?」
 「なつちゃんと二人で過ごせるのが嬉しくてずっと言えなかったけど、“お兄ちゃん”って呼ばれるの……正直すごく苦しいんだよね。」
 「……なんと呼べば……」
 「名前で呼んで?“泰明”って。もちろん呼び捨てに抵抗があるなら敬称をつけてもらって構わないから。」

 夏都は唇を震えさせながら「や、す、あ、きくん……」と呟いた。
 それに満足したのか泰明は「よくできました」と夏都の頭を撫でて微笑んだ。

 (和貴を連想するから、くん付けはやめてほしかったけど、ま、いっか。)

 その言葉は、喉元から来て飲み込んでしまうのだった。

 翌日は泰明も宣言通り宏明のところまで車を出してくれた。
 泰明と一緒に過ごした1週間も楽しいものだった。
 苦手意識はあったけど、楽しく過ごせるように努力してくれた泰明の優しさに感動すらしていることに夏都は驚いてしまう。

 「なつちゃん、俺はもう仕事に向かうから。」
 「うん。」
 「宏明は家庭教師のバイトが入って来れないけど、和貴に連絡入れといたから。」
 「わかった。」

 その時に「おーい」と男性の声が響いた。
 
 「噂をすれば影だね。じゃ、和貴と宏明によろしくな。」
 泰明はそのまま車を走らせた。

 車の中では泰明はポツリとつぶやく。

 「兄貴や宏明にも……そう誰にも絶対なつちゃんを渡さない……」
 
 醜い愛でしか夏都を愛せなくても自分だけのものにしたいと思うのだった。